トラヴェルセッテ峠

トラヴェルセッテ峠（フランス語：Col de la Traversette、イタリア語：Colle delle Traversette）は、コティアン・アルプス山脈に位置する標高2,947メートルの峠です。イタリアのクリッソーロとフランスのアブリエス（Abriès）という2つの村を結んでおり、雄大なモンテ・ヴィーゾ山（3,841メートル）とモンテ・グラネロ山（3,171メートル）の間に位置しています。車道は通っておらず、徒歩でのみ通行可能な遊歩道が整備されています。

歴史的なモンテ・ヴィーゾトンネル

1478年から1480年にかけて、驚くべきことに、長さ75メートルもの人用トンネル、モンテ・ヴィーゾトンネルが建設されました。これは、峠を越える人々のために作られた歴史的な遺産と言えるでしょう。

ハンニバルのアルプス越えルートの可能性

この峠が特に注目を集める理由の一つに、古代カルタゴの将軍ハンニバルのアルプス越えルートの候補地であるという説があります。

1950年代、ロンドン自然史博物館の館長であったギャヴィン・デ・ビーアは、トラヴェルセッテ峠をハンニバルの軍隊が通った可能性のあるルートとして提唱しました。しかし、著名なポリュビウス研究家であるF. W. Walbankは、1956年にこの説に対して反論しました。

論争は長らく続きましたが、2016年になって、デ・ビーアの説を裏付ける可能性のある証拠が発見されました。地質学者のウィリアム・マハニー（William Mahaney）らは、峠近くで発見された堆積物が、大量の人や動物の移動によって蓄積されたものである可能性を示唆しました。さらに、炭素同位体分析の結果、この堆積物が紀元前218年頃のものと推定されたのです。これは、ハンニバルがアルプスを越えたとされる時期と一致します。

ただし、炭素14を用いた年代測定には、前後60年程度の誤差が含まれる可能性があります。そのため、マハニーらの発見は、トラヴェルセッテ峠がハンニバルのアルプス越えルートであったことを完全に証明するものではありません。しかし、この発見は、長年の論争に新たな光を当てるものであり、歴史家や考古学者たちの間でさらなる議論を呼んでいます。

トラヴェルセッテ峠がハンニバルの軍隊が実際に通った道であったかどうかは、まだ確定していません。しかし、その歴史的な重要性、美しい景観、そしてハンニバルの伝説と結びついていることから、多くの人々にとって魅力的な場所であり続けています。

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