トリフェニルテトラゾリウムクロライド

2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド（TTC）

概要

2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド、通称TTC（Triphenyl tetrazolium chloride）は、化学反応における酸化還元状態を視覚的に示すために利用される指示薬として知られています。特に生物学や生化学の分野において、生きた細胞や組織が持つ呼吸活動や代謝の活発さを評価する目的で広く利用されています。その主な特徴は、生体内の特定の酵素によって還元されると、無色の状態から鮮やかな赤色へと変化する点にあります。

性質と取り扱い

純粋な状態のTTCは、白色の結晶性粉末です。この化合物は、水、エタノール、アセトンといった極性の高い溶媒には容易に溶解しますが、エーテルのような非極性溶媒にはほとんど溶けません。

TTCは光や熱に対して非常に不安定な性質を持っています。これらの条件下では容易に化学分解を起こし、本来の機能が損なわれる可能性があります。そのため、試薬の品質を長期にわたって維持するためには、低温で光を遮断した暗所に保管することが不可欠です。

TTC試験の原理

TTCが最も特徴的に応用されるのが、生物組織の代謝活動、特に生命活動の証である活性の有無を視覚的に検出する手法です。これは一般に「TTC試験」と呼ばれます。

試験の基本的な原理は、TTCが細胞内の特定の酵素、特に脱水素酵素の働きによって還元されることに基づいています。生きた細胞や組織は活発な代謝活動を行っており、この過程で脱水素酵素が機能しています。TTCが生理活性のある組織に取り込まれると、この脱水素酵素が触媒する反応を経て、テトラゾール環が開裂し、還元型の物質である1,3,5-トリフェニルホルマザン（TPF）へと変化します。

TPFは、TTCとは異なり、水に溶けにくい（不溶性）性質を持ち、かつ鮮やかな赤色を呈する化合物です。したがって、代謝活性が活発な組織ではTTCがTPFに還元され、細胞内または組織内に不溶性のTPFが沈着することで、その部分が赤く染まります。この色の濃さは、活性の度合いを反映する場合が多いです。

対照的に、代謝活性を失った組織や細胞では、脱水素酵素の活動が停止しているため、TTCは還元されずに無色のまま留まります。これにより、活性のある部分とそうでない部分を色の違いによって容易に区別することが可能となります。

応用例

TTCのこの活性依存的な呈色性質を応用して、様々な生物学的な評価が行われています。代表的な例としては以下のようなものがあります。

植物の根の活力測定: 植物の根が生きた状態であり、呼吸などの生理活動を行っているかを確認するために用いられます。健全な根はTTC溶液中で赤く染まりますが、傷んだ根や死んだ根は染まりません。
種子の発芽能力鑑定: 種子が正常に発芽する能力（発芽率）を持っているかを判定する迅速な方法として利用されます。発芽能力のある種子の胚や胚乳はTTCによって赤く染色されますが、発芽能力を失った種子は染色されません。
* 細菌の増殖確認: 細菌が生育・増殖している培養液にTTCを加えることで、細菌の代謝活動によってTTCが還元され、培養液が赤く濁る（または沈殿する）ことから、細菌の存在と増殖の有無を確認できます。

還元に関わる酵素

TTCの還元反応を触媒する脱水素酵素は一種類ではありませんが、細胞のエネルギー産生経路である電子伝達系に関わるものが特に重要です。具体的には、クエン酸回路から電子を受け取るコハク酸脱水素酵素や、NADHやFADH2から電子を伝達するフラビン酵素などが、TTCの還元による赤色化に関与する主要な因子として知られています。これらの酵素群の活性がTTC試験における呈色反応を決定づけています。

TTCは、比較的簡便な手法で生物の代謝活性を評価できることから、基礎研究から農業、食品産業、医療分野に至るまで、幅広い領域で活用されています。

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