トリーア選帝侯

トリーア選帝侯：神聖ローマ帝国を支えた枢要な存在

神聖ローマ帝国において、皇帝の選出は1198年以降、選挙によって行われるようになりました。この選挙で投票権を持つ特権階級が「選帝侯」です。彼らは帝国政治において決定的な権力を持ち、その地位は歴史的経緯と権力構造を反映していました。

初期の選帝侯は、マインツ大司教（マインツ選帝侯）、ケルン大司教（ケルン選帝侯）、トリーア大司教（トリーア選帝侯）、そしてライン宮中伯（プファルツ選帝侯）の4名から構成されていました。これら4名はライン川流域に勢力を持ち、帝国における影響力は絶大でした。

13世紀に入ると、選帝侯の数は増加します。ザクセン公（ザクセン選帝侯）、ブランデンブルク辺境伯（ブランデンブルク選帝侯）、そしてボヘミア王（ボヘミア選帝侯）が加わり、選帝侯は7名となりました。これらの選帝侯の資格や選挙手続きは、金印勅書によって詳細に規定されていました。

17世紀には、大きな変化が起こります。プファルツ選帝侯に代わってバイエルン公（バイエルン選帝侯）が選帝侯に加わりました。その後、プファルツ選帝侯の称号は復活しますが、新たな選帝侯として扱われ、序列において最下位に位置付けられました。さらに、ブラウンシュヴァイク＝リューネブルク公（ハノーファー選帝侯）も選帝侯に加わり、選帝侯の数は増加していきました。

選帝侯は、その性質から「聖界選帝侯」と「世俗選帝侯」に分類されます。聖界選帝侯は、マインツ、ケルン、トリーアの大司教から成り、世俗選帝侯は世俗の領邦君主でした。聖界選帝侯と世俗選帝侯の最大の違いは、聖職者である聖界選帝侯の地位が世襲制ではない点です。このため、相続を巡る争いや領土分割といった混乱は少なく、世俗選帝侯領に比べて安定した政治状況を維持していました。聖界選帝侯の交代は、聖堂参事会による選挙、ローマ教皇の承認、そして皇帝の承認という厳格な手順を踏んで行われました。

選挙においては、トリーア大司教が最初に投票を行うという特権が与えられていました。このことは、トリーア選帝侯の帝国政治における重要な地位を示しています。

18世紀以降、選帝侯の数は変動します。プファルツ選帝侯位が廃止され、19世紀にはトリーア選帝侯位も消滅しました。一方、ザルツブルク、バーデン、ヴュルテンベルク、ヘッセン＝カッセルといった新たな選帝侯位が創設されるなど、選帝侯制度は時代とともに変化を遂げていきました。

トリーア大司教区は、2世紀から21世紀まで続く長い歴史を持ちます。その歴史の中で、多くのトリーア大司教、すなわちトリーア選帝侯が輩出されました。彼らの活動は、トリーア地域のみならず、神聖ローマ帝国全体に大きな影響を与えました。

1522年に勃発した騎士戦争は、トリーア選帝侯への攻撃をきっかけとして始まった戦争として知られています。この戦争は、神聖ローマ帝国における宗教改革と、世俗勢力と教会勢力の対立という複雑な背景を反映した重要な出来事でした。

トリーア選帝侯の歴史を紐解くことは、神聖ローマ帝国の政治構造、宗教情勢、そしてヨーロッパ史を理解する上で非常に重要な役割を果たします。

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