トルガウ城で催されるカール5世のための狩猟

『トルガウ城で催されるカール5世のための狩猟』は、ドイツ・ルネサンスの巨匠ルーカス・クラナッハ（父）が1544年に描いた油彩画です。この作品は、翼のついた蛇の紋章と年記が画家の署名として記されており、板上に油彩で描かれています。

この絵画は、ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒが、神聖ローマ皇帝カール5世に贈ったもので、当時複雑な関係にあった両者の間で、政治的な意味合いを持っていたと考えられています。この作品は、後にマリア・フォン・エスターライヒによってスペインにもたらされ、エル・パルド宮殿に飾られていた記録が1564年の目録に残っています。現在は、対をなす『トルガウ城で催されるローマ王フェルディナント1世のための狩猟』とともに、マドリードのプラド美術館に所蔵されています。

クラナッハとその工房は、この作品以外にも、同じような狩猟の場面をいくつか描いています。これらの絵画には、ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒが、様々な君主を伴い、彼が所有するトルガウのハルテンフェルス城を背景に描かれています。これらは1540年代に、他の君主への贈り物として選帝侯に依頼された可能性があり、政治的な意図があったと考えられています。トルガウ城は当時、新たにプロテスタントの教会として改装されており、宗教改革に献身する選帝侯が自身の領土の正当な支配者であることを示す象徴としても機能していました。

絶対王政の時代、狩猟は王族にとって軍事訓練の一環であり、嗜みでもありました。この絵画では、選帝侯が神聖ローマ皇帝カール5世のために催す狩猟の様子が描かれています。しかし、この狩猟は史実に基づいたものではなく、狩猟を通じて善政を象徴的に表現した寓意的な創作です。歴史的には、この絵が描かれた1544年にカール5世が、1527年にトルガウで行われた選帝侯の結婚を認めたという経緯があります。

絵画の画面左前景には、カール5世とザクセン選帝侯が、捕獲された動物たちと共に描かれています。彼らは、犬に追われ水に落ちた鹿を射ようと待ち構えています。画面右前景には、赤いドレスをまとった選帝侯の妻、ジビュレ・フォン・ユーリヒ＝クレーフェ＝ベルクの姿が見えます。

クラナッハは、地平線を高い位置に設定し、複数の出来事を同時に展開させています。また、写実性よりも物語性を重視して描いています。動物を追いかける狩猟の躍動感と、草むらで静かに待機する廷臣たちの姿が対比的に描かれています。

この作品は、ルネサンス期の政治と文化、そして芸術家の技巧が融合した貴重な歴史的資料であり、観る者に当時の社会背景や芸術観を深く理解する機会を与えてくれます。

もう一度検索