トレンチ調査 (地質学)

トレンチ調査の概要

トレンチ調査（トレンチちょうさ）は、地質学において活断層の過去の活動を調査するための手法です。この調査は、活断層の通過箇所やその活動が予測される地点に、数メートルから十数メートルの深さで掘られた溝（トレンチ）の壁面を観察することによって行われます。調査対象となるのは、地層の層構造や化石、土砂の堆積状況などであり、これらのデータを分析することで過去の地震の痕跡や年代を明らかにします。

トレンチ調査の用途

特にこの手法は、過去に発生した地震の年代を調査するためによく用いられています。活断層が活動することで地層が断たれたり、変形したりすることがあり、その上に堆積する土砂は水平に堆積します。この現象を利用して、変形した地層と水平な地層の年代を比較することで、地震がどのタイミングで発生したかを特定することができます。

トレンチ調査の歴史

トレンチ調査が有効な手法として認識され始めたのは、1970年代末のアメリカです。それ以前にも行われていた事例はありましたが、スタンフォード大学の学生であったケリー・シーがカリフォルニア州のパレットクリークでサンアンドレアス断層を越えるトレンチを掘り、9回の地震の証拠を発見したことがこの手法を広めるきっかけとなりました。彼女の調査によって、地層から地震の証拠を見つけ出すことができるという可能性が示され、以後、地震の発生年代を調べる手法として広く採用されるようになりました。日本では1978年に鳥取県の鹿野断層で初めてのトレンチ調査が行われました。

調査における問題点

トレンチ調査にはいくつかの課題があります。第一に、調査したい断層帯の情報をどれだけ正確に把握できるかという問題です。断層は一本の連続した線で形成されているわけではなく、複数の断層線が一つの断層帯を構成しています。一回の地震だけで全ての断層線が動くことはないため、一か所のトレンチ調査から得られる情報は限られてしまいます。

第二に、地層構造からどれほど正確に断層の活動を読み取れるかという点です。トレンチの壁面を肉眼で観察する際の精度には限界があります。そのため、視覚以外の新しい地層分析技術の開発が求められています。

第三に、地層の年代を正確に決定する方法に関する問題も存在します。年代測定には、地層中に含まれる炭素同位体比の測定や、火山灰、土器などの遺物からの年代推定が用いられます。その中で放射性炭素年代測定法がよく知られていますが、300年よりも新しい試料の測定は難しいとされています。

第四に、調査適地の選定も重要です。最適な調査場所を見つけるためには、断層の位置が数メートルの精度で特定される必要があります。また、過去数千年間の堆積物が連続的に存在することも求められます。調査地が見つからない場合は、ボーリング調査や音波調査に切り替えることもあります。

参考文献

• - 産業技術総合研究所活断層研究センター編『地震と活断層: 過去から学び、将来を予測する』(2004)
• - 東郷正美著『微小地形による活断層判読』(2000)
• - 池田安隆ほか著『活断層とは何か』(1996)

これらの文献は、トレンチ調査に関する理解を深めるための貴重な資料です。

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