トレーリングアーム式サスペンション

トレーリングアーム式サスペンション：概要と種類

トレーリングアーム式サスペンションは、自動車の車輪を支持し、路面からの衝撃を吸収するサスペンションシステムの一種です。その特徴は、車軸の前方に配置されたピボットを中心に、アームが後方に「追従する（トレーリング）」ように動く点にあります。このシンプルな構造により、コストを抑えつつ、独立懸架と車軸懸架の両方の特性を併せ持つことができます。

トレーリングアーム式サスペンションは、その構造や用途によっていくつかの種類に分類されます。

フルトレーリングアーム式: スイング軸と車軸がほぼ平行で、主に後輪駆動車（FR）の後輪などに用いられます。ストローク時のトー変化やキャンバー変化が少なく、シンプルで耐久性が高い点がメリットです。
セミトレーリングアーム式: スイング軸を水平方向に偏向させたもので、駆動輪に用いられることが多いです。ドライブシャフトの動きへの配慮から、この角度が設計上重要になります。ストロークに伴いトーインとなり、安定性向上に寄与します。キャンバー変化は大きく、ロール時の接地性向上に効果がありますが、横G限界での挙動変化はやや大きくなります。
トーションビーム式: 左右のトレーリングアームを、可撓性のビームで連結したものです。コンパクトで軽量なため、特に小型車の前輪などに多く用いられています。カタログ上では「トレーリングアーム式」と表記される場合もあります。

これらの種類以外にも、コイルばね、トーションバー、空気ばねなど、様々なばねと組み合わせて使用されます。また、フォルクスワーゲン・タイプ1のような、上下二段のアームを持つダブルトレーリングリンク式なども存在しました。

歴史と進化

トレーリングアーム式サスペンションは、自動車の歴史において長い間使用されてきました。特に、1950年代以降の欧州や日本の上級FR車では後輪サスペンションとして広く採用されていました。しかし、近年では自動車の高性能化、高速度化、重量増加に伴い、より高度なサスペンションシステムであるダブルウィッシュボーン式やマルチリンク式に取って代わられる傾向にあります。

長所と短所

長所

シンプルな構造: 部品点数が少なく、製造コストが低い。
高い耐久性: シンプルな構造のため、故障しにくい。
独立懸架と車軸懸架の両対応: 車両設計の自由度が高い。

短所

操縦安定性: 高速走行時やコーナリング時の操縦安定性は、ダブルウィッシュボーン式やマルチリンク式に劣る場合があります。
乗り心地: 路面からの衝撃吸収性は、より複雑なサスペンションシステムに劣ることがあります。
車高調整の制約: 車高を下げるとアームが持ち上がり、ハンドリングに悪影響を及ぼす可能性がある。
キャンバー変化: 特にセミトレーリングアーム式ではキャンバー変化が大きく、限界時の挙動に影響を与える可能性がある。

まとめ

トレーリングアーム式サスペンションは、そのシンプルな構造とコストパフォーマンスの高さから、現在でも一部の車両に使用されています。しかし、高性能車においては、より高度なサスペンションシステムに置き換えられる傾向が強くなっています。本記事では、トレーリングアーム式サスペンションの概要と種類、長所と短所を解説しました。車両選定の際に、サスペンションの種類も考慮に入れて検討することをおすすめします。

トレーリングアーム式サスペンション