トロイア戦記

トロイア戦記

『トロイア戦記』（Posthomerica）は、古代ギリシャの詩人クイントゥスによって4世紀後半に書かれた叙事詩です。この作品は『イーリアス』のヘクトールの死から始まり、トロイア陥落に至るまでの激闘を描いています。全14巻から成るこの作品は、約8800行に及び、イーリアスの約半分の長さです。

物語の背景と成り立ち

クイントゥスは、ホメーロスの叙事詩に描かれなかった部分を補完することを目的にこの作品を執筆しました。物語は、ヘクトールの葬儀を経てアマゾンの女王ペンテシレイア、メムノーン、アキレウスらの戦いと死を描写し、その後に開催されるアキレウスの追悼競技会に移ります。

続いて、第5巻から12巻では、アキレウスの鎧を巡る争いや、アイアースとオデュッセウスの関係、さらには木馬の製作までが語られます。最終的にはトロイアが木馬によって陥落し、戦士たちがそれぞれの運命を迎える様子が描かれます。このように、『トロイア戦記』はトロイア戦争の終焉を鮮明に描いており、同時にホメーロスの作品に新たな視点を提供しています。

主要な登場人物

この叙事詩には多くの人物が登場し、ギリシャ勢とトロイア勢の両方から重要なキャラクターが描かれています。ギリシャ側の代表としては、アガメムノーン（ミュケーナイの王）、アキレウス（ギリシャ軍最強の英雄）、オデュッセウス（イタケーの王）などが登場します。また、トロイア側では、プリアモス（トロイア王）、ヘクトール（プリアモスの子）、カッサンドラー（王女であり予言者）などが物語において重要な役割を果たします。

ホメーロスとの関係

『トロイア戦記』は、ホメーロスの叙事詩と類似した点が多くありますが、クイントゥス自身の独自性も強く表れています。特に、クイントゥスは物語の導入を省略し、ホメーロスの物語の直接的な続きとしてスタートしています。これにより、彼はホメーロスの作品からの影響を受けつつも、独特の視点を持った物語を構築しました。

評価と影響

長い間、クイントゥスの作品はホメーロスに劣るとされていましたが、近年は彼の独自性や創造性を再評価する流れが強まっています。ルーマニアの文学研究者、Eugen Cizekは「クイントゥスによって、ホメーロスの欠落を補完し、古代世界の英雄物語が完成した」と述べています。

このように、『トロイア戦記』は古代ギリシャの叙事詩の中で重要な位置を占めており、その内容と構成において後世の文学に多大な影響を与え続けています。

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