トーマス・チッペンデール

トーマス・チッペンデール：18世紀イギリス家具デザインの巨匠

トーマス・チッペンデール (1718年-1779年) は、イギリス家具史にその名を刻む著名な家具職人、デザイナーです。ウェスト・ヨークシャーのオトリーに生まれ、ロンドンで成功を収め、後の家具デザインに多大な影響を与えました。

華麗なるキャリア：ロンドンでの成功と出版

徒弟修行を経て、1748年にロンドンへ移住したチッペンデールは、家具産業の中心地に工房を構え、事業を拡大しました。彼は、熟練の職人集団を率いて家具製作を行い、上流階級向けの室内装飾も手掛け、高い評価を得ました。

彼の名を不朽のものとしたのは、1754年に出版された『紳士と家具師のための指針 (The Gentleman and Cabinet-Maker's Director)』です。この専門書には、当時流行した様々な家具のデザイン図が掲載されており、顧客は図面を参考に家具を注文し、他の家具職人にも広く模倣されました。この本の出版により、チッペンデールは時代の寵児となり、家具デザインにおける地位を確固たるものにしました。

多様な様式とマホガニー材の活用

チッペンデールは、ロココ様式を基調としながらも、中国様式やゴシック様式といった多様な要素を取り入れ、独自のスタイルを確立しました。彼のデザインは、優美さと洗練さを兼ね備えており、当時の上流階級に高く評価されました。特に、1770年代以降には、新古典主義建築家ロバート・アダムが設計した邸宅、ハーウッド・ハウスやオスタレー・パークなどに、マホガニー材を用いた精巧な家具を製作しました。マホガニーは、輸入西インド諸島産で、軽くて丈夫で加工しやすい性質を持ち、チッペンデールの繊細で華麗なデザインを実現するのに最適な木材でした。

「チッペンデール様式」の特徴

「チッペンデール様式」と呼ばれる彼の家具デザインの特徴は、クイーン・アン様式をベースにフランス・ロココ様式の影響を受け、猫脚や鷹の爪を模した装飾が用いられている点にあります。テーブルのデザインも多様で、サパーテーブルのように、使用しない時は上部の板を立てて壁際に置くことのできる、空間演出も考慮されたデザインもあります。また、飾り棚や書棚にはスワンネックと呼ばれる優雅な曲線装飾が施され、扉にはゴシック様式のトレサリーを模した格子組みが用いられるなど、様々な装飾技法が駆使されています。特に、中国様式の影響を強く受けた「チャイニーズ・チッペンデール」と呼ばれる作品群は、椅子やベッドなどに中国建築様式を思わせるデザインが取り入れられており、彼のデザインにおける多様性を示しています。

チッペンデールの遺産と今日の影響

チッペンデール自身の手による家具は現存数が少ないものの、彼のデザインは数多くの家具職人によって模倣され、広く普及しました。「チッペンデール」の名を冠する多くの家具は、彼のデザインに基づいて作られたものであり、彼自身の手によるものとは限りません。しかし、彼のデザインは後の家具デザインに多大な影響を与え、現在でもそのエレガントで洗練されたスタイルは、世界中の多くの人々を魅了し続けています。彼のデザインは、単なる家具製作を超え、18世紀イギリス文化を象徴する重要な芸術的遺産として、今日まで受け継がれているのです。

主な著書

『紳士と家具師のための指針』(The Gentleman and Cabinet-Maker's Director, 1754年)
『家具職人、室内装飾家、及び一般芸術家の百科事典』(The Cabinet-Maker, Upholsterer, and General Artists' Encyclopedia, 1805年)

彼の功績は、単なる家具職人としての枠を超え、デザイン界に多大な影響を与えたデザイナーとしての評価が非常に高いといえるでしょう。

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