ドゥルセ川

アルゼンチンの北西部地域において、特に重要な河川の一つとして知られるのがドゥルセ川（スペイン語: Río Dulce）です。その名称はスペイン語で「甘い川」という意味を持ち、古くからこの地で生活する人々にとって恵みの流れであったことを示唆しています。また、先住民の言葉であるケチュア語では、この川はMisky Mayu（ミスキー・マユ）と呼ばれています。サンティアゴ・デル・エステロ州においては、サラド川と並んで地域の地理、経済、そして生態系を支える上で極めて中心的な役割を担っています。

地理

ドゥルセ川の源流は、アルゼンチン北部にあるトゥクマン州の山間部に位置します。この最上流部では、サリ川（スペイン語: Río Salí）という名で呼ばれており、その流れは北方のサルタ州からも支流を集めながら南へと下ります。サリ川はトゥクマン州を縦断し、サンティアゴ・デル・エステロ州の境界を越える地点でドゥルセ川と名を変えます。

改名後のドゥルセ川は、州都サンティアゴ・デル・エステロやその近郊のラ・バンダといった都市部を通り抜けながら、約450キロメートルにわたって北西から南東へと流路をとります。その後、川はコルドバ州へと入り、そこでオンド川（スペイン語: Río Hondo）と合流します。ドゥルセ川の旅はここで終わりを迎えるわけではなく、合流後の流れはさらに進み、最終的に広大な塩湖であるマール・チキータ（スペイン語: Mar Chiquita、「小さな海」の意）へと注ぎ込みます。マール・チキータは内陸湖であり、外部の海、すなわち大西洋へ直接水を流出させる河川は存在しません。ドゥルセ川の水は、この塩湖で蒸発するか、または湖の生態系を潤すことになります。

流域の利用と課題

ドゥルセ川とその流域は、地域住民の生活と経済活動に深く結びついています。特に、年間を通じて乾燥した気候であるサンティアゴ・デル・エステロ州にとって、ドゥルセ川は農業を支えるための灌漑用水として最も重要な水源となっています。

トゥクマン州とサンティアゴ・デル・エステロ州の境界部には、リオ・オンド・ダムが建設されており、その貯水池はサリ川をはじめ、トゥクマン州から流れるチコ川など、四つの主要な河川の水を受け入れています。このダム湖は地域の水供給に貢献していますが、上流のサリ川からは、主にトゥクマン州の産業活動、特にパルプ製造に関連する排水や繊維質が流れ込むことがあり、これがダム湖の水質汚染の一因となっている現状があります。

さらに、サンティアゴ・デル・エステロ州内の水供給能力を高めるため、1956年には州の北西部にロス・キロガ・ダムが完成しました。このダムからの水は、州内の広範囲に供給され、乾燥地帯における農業生産性を向上させる上で大きな役割を果たしています。しかし一方で、このダムによる大規模な取水や水資源管理の変化は、州の南東部など特定の地域において、地下水位の低下や局地的な降水量の減少といった環境への影響をもたらしているという指摘もなされています。

環境保護

ドゥルセ川流域に広がる湿地帯は、その豊かな生態系と多様な動植物を育む環境として、国際的な重要性が認識されています。特に、川の終着点であるマール・チキータ湖とその周辺に広がる湿地帯は、渡り鳥を含む多くの水鳥にとって重要な生息地および飛来地となっています。

この生態学的な価値を保護するため、2002年5月28日には、「ドゥルセ川流域の湿地」（スペイン語: Bañados del Río Dulce）は、マール・チキータ湖と共に「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」、いわゆるラムサール条約に登録されました。この登録により、ドゥルセ川流域の湿地帯は国際的に重要な湿地として認められ、その保全に向けた取り組みが一層強化されることになりました。この湿地は、乾燥地帯における貴重な水辺環境として、地域の生物多様性を支える上でかけがえのない役割を果たしています。

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