ドクトル・マブゼ

ドクトル・マブゼ

『ドクトル・マブゼ』（Dr. Mabuse, der Spieler - Ein Bild der Zeit）は、1922年に公開されたドイツのサイレント映画であり、その内容の奥深さから今なお多くの人々に支持されています。この作品は、4時間を超える長さを持ちながらも、サイレント映画の中では特に異例のものであり、世界犯罪映画史においても古典的な位置を占めています。監督は、戦間期のドイツ映画界で名を馳せたフリッツ・ラングで、原作はノルベール・ジャックの小説です。脚本はラングと彼の妻であるテア・フォン・ハルボウが共同で執筆し、映像の美術はオットー・フンデとカール・シュタール＝ウーラッハが手掛けました。

ストーリー概要

物語は、恐れられる犯罪者マブゼ（ルドルフ・クライン＝ロッゲ）が、部下に指令を出しながらスタートします。彼は列車内で乗客を絞め殺し、重要な経済協定書を略奪します。この事件により、ドイツの株価は急落し、マブゼはこの混乱を利用して大儲けを企てます。他にも彼は、贋紙幣を作成する印刷工場を持ち、さらにはカジノでの不正賭博を通じて巧妙に財を蓄えていく様子が描かれています。

マブゼにはダンスホールの踊り子カーラ・カロッツァ（アウド・エゲーテ・ニッセン）という情婦がいます。彼女と楽しむ時間よりも、彼は他の富豪たちから金を巻き上げることに専念し、次々に富を手に入れていきます。しかし、検事フォン・ヴェンク（ベルンハルト・ゲッツケ）はマブゼの不正を追求し始め、物語は大きく動き出します。彼はマブゼの正体を突き止めようと変装して賭博場に潜入しますが、彼の試みは次々に失敗に終わります。

第二部の展開

物語はさらに複雑な展開を迎えます。トルド伯爵（アルフレッド・アベル）は、マブゼに催眠術をかけられ、彼の意に反していかさまカードを行う羽目になってしまいます。フォン・ヴェンクは、この状況を解決しようと奔走しますが、マブゼは冷静に対策を講じていきます。彼は次第に精神的に追い詰められた伯爵を利用し、自殺に追い込むという非道な計画を実行します。

物語はマブゼが警察に追跡され、最終的に贋造した紙幣の中に閉じ込められ、狂気に陥るところでクライマックスを迎えます。この映画は、単なるエンターテインメントではなく、戦後のドイツ社会への批評が込められているとも言われています。特に、ラング監督は娯楽作品としての側面も大切にしながら、当時の社会の退廃を描こうとする意図があったことが、最近の研究でも裏付けられています。

公開とその影響

『ドクトル・マブゼ』は、ドイツ国内では二部作として公開されましたが、1923年に前後編が同時にロンドンとパリで公開された際にも大きな人気を得ました。日本では1923年に短縮版が公開され、大きな反響を呼びました。一方、アメリカでは1927年になって短縮版が公開されましたが、内容が分かりにくいとの批判を受けました。

この作品は、その後のハリウッド映画にも影響を与え、映像技術やストーリーテリングの方法論においても革新的な役割を果たしました。様々な要素が緊密に結びついた『ドクトル・マブゼ』は、サイレント映画の傑作として現代にも色あせることなく、視聴者を魅了し続けています。

もう一度検索