ドグマ95

ドグマ95：映画の純粋性を求めて

1995年、デンマークを拠点とする映画監督ラース・フォン・トリアーらによって提唱された「ドグマ95」は、映画製作における革新的な運動でした。既存の映画製作手法への反骨精神と、より純粋な表現方法への追求がその根底にあります。

純潔の誓い：10個のルール

ドグマ95の中核をなすのが、「純潔の誓い」と呼ばれる10個のルールです。これらのルールは、映画製作における技術的な制約を設けることで、ストーリーや表現そのものに焦点を当てることを目的としています。

これらのルールは、以下のように要約できます。

1. ロケーション撮影のみ: スタジオでの撮影は禁止。現実世界をそのまま映し出すことに重点を置きます。
2. 自然音のみ: 後から付け加える効果音は禁止。現実の音だけが使用されます。
3. 手持ちカメラ: スタビライザーなどを使用せず、不安定な映像で臨場感を演出します。
4. カラー撮影、照明効果禁止: 特別な照明は使用せず、自然光のみで撮影されます。
5. 光学合成やフィルター禁止: デジタル処理による映像加工は一切行いません。
6. 表面的なアクション禁止: 暴力描写や銃撃戦などは避け、より人間の内面を描くことに重点が置かれます。
7. 時間的、地理的な制約: 架空の設定や回想シーンなどは避け、現在進行形での物語展開が求められます。
8. ジャンル映画の禁止: 特定のジャンルに縛られない、自由な表現が許されます。
9. 35mmフィルム: 特定のフォーマットへのこだわりを示しています。
10. 監督名の非クレジット: 映画作品そのものに焦点を当て、監督個人の名声に重きを置かない姿勢を示しています。

ルールの柔軟性とドグマ映画の認定

「純潔の誓い」は、絶対的なルールではなく、あくまでも目指すべき方向性を示す指針として解釈されています。実際、ドグマ映画の中には、これらのルールを完全に守っていない作品も存在します。

ドグマ映画の認定は、監督がドグマ95のサイトを通じて、自ら誓約を行うシステムです。厳格な審査プロセスは存在せず、監督自身の表明が認定の基準となっています。この柔軟な運用は、ドグマ95の革新的な性質を表しています。

ドグマ95の影響と評価

ドグマ95は、映画製作への新しい視点を提示し、多くの監督や映画愛好家に影響を与えました。ミニマルな手法を用いることで、ストーリーや演技、そして人間の感情を際立たせることに成功した作品が多く生まれています。

2008年には、ラース・フォン・トリアーを始めとするドグマ95の中心メンバーが、ヨーロッパ映画賞で世界的貢献賞を受賞。その功績が国際的に認められました。

代表的なドグマ95作品

ドグマ95運動から生まれた作品は数多くありますが、特に日本でも公開され話題となった作品をいくつか紹介します。

『セレブレーション』(1998年、トマス・ヴィンターベア監督)
『イディオッツ』(1998年、ラース・フォン・トリアー監督)
『ミフネ』(1998年、ソーレン・クラーク＝ヤコブセン監督)
『ラヴァーズ』(1999年、ジャン＝マルク・バール監督)
* 『キング・イズ・アライヴ』(2000年、クリスチャン・レヴリング監督)

これらの作品は、それぞれ異なるテーマやスタイルを持ちながらも、ドグマ95の精神を反映した、独特のリアリティと深みのある作品となっています。

まとめ

ドグマ95は、映画製作における既成概念を打ち破り、新しい表現の可能性を切り開いた運動でした。「純潔の誓い」というルールを通して、映画の本質である物語と人間の感情に焦点を当て、映画表現の新たな地平を切り拓きました。その影響は、現代映画にも色濃く残っています。

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