ドナルド・ソボル

ドナルド・J・ソボル（Donald J. Sobol）は、1924年10月4日にニューヨークにて生を受け、2012年7月11日にその生涯を終えたアメリカ合衆国の児童文学・推理作家です。特に『Encyclopedia Brown』（邦題『少年たんていブラウン』）シリーズの作者として世界的に知られています。

ニューヨークでアイラ・J・ソボルとアイダ（ジェルラ）ソボル夫妻の子として育ったソボルは、1942年にフィールドソン校を卒業しました。第二次世界大戦中には陸軍工兵隊員としてヨーロッパ戦線で兵役を務め、戦後は学業を続け、オベリン大学を卒業後、「New School of Social Research」でも学びを深めました。

卒業後のキャリアはジャーナリズムから始まりました。当初、『ニューヨーク・サン』紙で使い走りの原稿係として働き始めましたが、やがて記者へと昇進しました。その後、『デイリーニューズ』紙に移り、2年間記者として活動しました。新聞記者としての経験は、後に作家として事実に基づいて物語を構築する上で役立ったと考えられます。ジャーナリズムの世界を離れた後、一時的にメイシーズでバイヤーを務めるなど異色の経歴も持ちますが、最終的にはフロリダ州に居を定め、専業作家としての道を歩み始めました。

作家としてのデビューは1959年の『Two Minute Mysteries』（邦題『2分間ミステリ』）シリーズによって果たされました。このシリーズは、提示された短い事件と証拠から読者自身が犯人を見抜くという形式で、その後の彼の作風の原型となるものです。そして1963年、彼の名を最も高めることになる代表作『Encyclopedia Brown』シリーズの執筆を開始しました。

『少年たんていブラウン』シリーズは、好奇心旺盛で「百科事典」のような知識を持つ少年探偵リロイ・ブラウン（通称エンサイクロペディア・ブラウン）が、友人や近所の子供たち、そして時には警察の事件を解決していく物語です。各章が一つの短い事件となっており、事件の解決に必要なヒントが本文中に巧妙に隠されています。読者はブラウン君が謎を解く前に、自力で犯人やトリックを見破ることに挑戦できるインタラクティブな要素が大きな魅力でした。このユニークな形式と、子供たちの論理的思考力を刺激する内容は多くの読者を惹きつけ、シリーズは世界12カ国語に翻訳されるほどの人気を博しました。この功績により、1976年には権威あるエドガー特別賞が贈られました。

ソボルは生涯で65冊を超える作品を生み出しましたが、そのほとんどは子ども向けの作品でした。しかし、その活動は児童文学に留まらず、ノンフィクションの分野でもその才能を発揮し、著名な業績を残しています。また、ペンネームを用いて雑誌の編集にも協力するなど、出版業界の多方面で活躍しました。

彼の全著作は、アメリカのミネソタ大学にあるカーラン文庫に収蔵されており、研究の対象ともなっています。これは、ソボル作品が単なる娯楽に留まらず、文学的、あるいは教育的な価値を持つものとして評価されていることを示しています。

長年の作家活動の後、ドナルド・J・ソボルは2012年7月11日にフロリダ州マイアミにて、老衰により87歳で静かに息を引き取りました。

日本においても、『少年たんていブラウン』シリーズは花輪莞爾氏の翻訳で、また『2分間ミステリ』シリーズやノンフィクション作品は他の翻訳者によって紹介されており、多くの日本の読者に親しまれています。彼の残した、知的好奇心をくすぐる短いミステリーは、今なお世界中の子どもたちに読み継がれています。

もう一度検索