ドブス対ジャクソン女性健康機構事件

ドブス対ジャクソン女性健康機構事件

ドブス対ジャクソン女性健康機構事件（Dobbs v. Jackson Women’s Health Organization）は、2022年にアメリカ合衆国最高裁判所が下した重要な判決である。この事件は、中絶の権利に関する合憲性をめぐるものであり、判決によりアメリカ合衆国憲法が中絶の権利を保障していないとされた。これにより、以前の判決であるロー対ウェイド（1973年）およびプランド・ペアレントフッド対ケーシー（1992年）を覆すこととなり、中絶に関する規制は連邦法から個々の州の判断に移行された。

事件の背景

この訴訟の発端は、ミシシッピ州における2018年の州法であり、妊娠の初期15週間以降のほとんどの中絶手術を禁止するものであった。この法律は、キリスト教法律団体である自由防衛同盟のモデルに基づいており、意図的に最高裁判所までの法廷闘争を開始していた。当時ミシシッピ州で唯一の中絶クリニックであったジャクソン女性健康機構は、州保健局の官僚であるトーマス・E・ドブスを告訴し、法律の執行を差し止めるよう求めた。この訴訟は、ロー対ウェイドとケイシー事件に基づいており、憲法修正第14条の適正手続き条項による保護を根拠にしていた。

法廷での出来事

最高裁判所での口頭弁論は2021年12月に行われ、2022年5月には、サミュエル・アリート判事が執筆した多数意見の草案が流出した。流出した草案は、最終的な判決とほぼ一致しており、2022年6月24日に裁判所は6対3の投票で下級裁判所の判決を覆す決定を下した。この判決に対して、5人の判事のうち3人がローとケイシーの判決を覆す意見に賛同し、中絶は憲法上の権利ではないと主張した。首席判事のジョン・ロバーツは、ミシシッピ州法への支持は示したが、ローとケイシーを覆す意見には賛同しなかった。

反響と影響

ドブス判決後、アメリカの多くの医学、科学、および労働組合のコミュニティ、さらには多くの宗教団体がこの決定に反対した。決定に対する抗議運動が広がり、中絶の権利に対する意見が分かれた。この判決は、アメリカ社会における中絶に関する文化的変化を引き起こし、複数の州が即座に中絶制限を導入した。

2023年には、17の州で中絶が大幅に制限されており、そのほとんどがアメリカ南部に位置している。全国的な調査では、合法的な中絶へのアクセス支持が前年から10〜15％増加した。また、カンザス州やモンタナ州を含む複数の州で行われたレファレンダムにおいては、中絶の権利を支持する結果が得られ、比較的超党派で圧倒的な差が見られた。

結論

ドブス対ジャクソン女性健康機構事件は、アメリカにおける中絶の権利やその規制に対して深刻な影響を与え、今日に至るまで続く議論の中心にある。この事件は、個々の州が中絶に関する政策を自由に決定できる状況を生み出し、引き続きアメリカ社会における重要な課題を浮き彫りにしている。

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