ドミノ・セオリー

ウェザー・リポートが1983年に発表したスタジオアルバム『ドミノ・セオリー』について解説します。彼らにとって通算12作目にあたるこの作品は、エレクトリック・ジャズというジャンルを牽引したバンドの後期を代表する一枚です。アルバムタイトルである『ドミノ・セオリー』は、当時の国際情勢に影響を受けたものと思われますが、音楽的には彼らの円熟期における新たなサウンドの方向性を示しています。

本作のサウンドは、当時のウェザー・リポートを支えていた強固なリズムセクションによって特徴づけられます。ドラマーのオマー・ハキム、ベーシストのヴィクター・ベイリー、そしてパーカッショニストのホセ・ロッシー。彼らは前作『ウェザー・リポート』(1982年)から参加しており、『ドミノ・セオリー』は彼らが揃った編成としては2枚目となります。この強力なリズム隊が繰り出すタイトでグルーヴィーな演奏は、バンドの創設者であるジョー・ザヴィヌルの緻密なキーボードワークとウェイン・ショーターの叙情的なサクソフォーン演奏を力強く支え、バンドの音楽性をより現代的な方向、特に80年代初頭のコンテンポラリーなフュージョンサウンドへと推し進めました。シンセサイザーを多用したサウンドプロダクションは、この時代の音楽潮流を反映しており、ダイナミックかつ洗練された楽曲群が収録されています。

バンドの核であるジョー・ザヴィヌルはキーボード全般とシンセサイザーを担当し、作曲面でも中心的な役割を担い、バンドサウンドの基盤を構築しています。ウェイン・ショーターはサクソフォーンで、ザヴィヌルと対をなすメロディラインや、バンド独自のアンサンブルにおける重要なソロパートを担いました。リズム隊は前述のオマー・ハキム（ドラムス）、ヴィクター・ベイリー（ベース）、ホセ・ロッシー（パーカッション）が担当し、バンドサウンドに推進力と現代的なグルーヴをもたらしています。特にハキムとベイリーによるリズム隊は、この時期のウェザー・リポートのライブパフォーマンスにおいてもバンドを支える重要な要素でした。さらに、収録曲の一つ「キャン・イット・ビィ・ダン (Can It Be Done)」では、ヴォーカリストのカール・アンダーソンがゲスト参加しており、インストゥルメンタル中心のアルバムに多様な色彩を加えています。

1980年代に入り、ウェザー・リポートは幾度かのメンバーチェンジを経て、この時期に固まったメンバー構成で安定した活動を展開していました。『ドミノ・セオリー』は、そうしたバンドの後期におけるサウンドを明確に示す作品であり、前作から継続されたリズムセクションによるパフォーマンスは、この時期の彼らのライブにおける迫力をも彷彿とさせます。ザヴィヌルとショーターという中心人物のもと、新しい才能がバンドに刺激を与えながら進化を続けるウェザー・リポートの姿を捉えた一枚と言えるでしょう。このアルバムは、彼らが常に音楽的な探求を続け、変化を恐れずに新たな要素を取り入れていく姿勢を改めて示しています。

『ドミノ・セオリー』は、ウェザー・リポートの豊富なディスコグラフィーの中でも、特に80年代初頭の彼らの音楽性を理解する上で重要な作品です。タイトで現代的なリズム、緻密なシンセサイザーサウンド、そしてバンド独自のアンサンブルが融合した本作は、フュージョンというジャンルにおいて常に革新を追求し続けたウェザー・リポートの意欲を示すアルバムの一つとして記憶されています。この時期のウェザー・リポートサウンドに興味を持つリスナーにとって、本作は彼らの進化の過程を知る上で欠かせない一枚と言えるでしょう。

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