ドラゴン酔太極拳

映画『ドラゴン酔太極拳』の概要

『ドラゴン酔太極拳』は、1984年に公開された香港の功夫映画であり、監督はユエン・ウーピンが務めました。主演には、これが彼の初映画出演となるドニー・イェンが起用されています。この作品は、コメディと武道アクションを融合させたものであり、武術指導にはウーピン監督の兄弟たちからなる袁家班（ユエン・アクションチーム）が関与しています。

日本では未公開でしたが、1985年にTBS系の月曜ロードショーで放送され、邦題『女デブゴン強烈無敵の体潰し!!』として視聴者に届けられました。この放送の前には、監督や女優リディア・サム、サイモン・ユエン・ジュニアらが日本に来て、メディアに出演するなどのプロモーションも行われました。ただし、作品内でのリディア・サムの登場は多くなく、主役のドニー・イェンは残念ながら来日しませんでした。1987年にVHSがリリースされたものの、日本版のDVDは未だに発売されていません。

映画の背景と位置づけ

1973年にブルース・リーが亡くなると、香港における功夫映画の人気は次第に低迷していきました。この状況を打破しようとしたのが、コメディと功夫の要素を融合させた映画たちでした。1975年にラウ・カーリョン監督が発表した『マジッククンフー 神打拳』がその先駆けとなり、1978年の『燃えよデブゴン』や、ジャッキー・チェン主演の『ドランクモンキー 酔拳』などが大ヒットを記録しました。これにより功夫コメディというジャンルが確立されたのです。

しかし80年代に入ると、功夫映画のスターたちは次々と現代劇やアクション映画への転身を図るようになります。ジャッキー・チェンもその一人であり、彼の1983年の『プロジェクトA』や1984年の『スパルタンX』は古典的な功夫映画からの脱却を試みた作品でした。そのため、本作『ドラゴン酔太極拳』は、従来の功夫コメディのスタイルを保持しつつ新しい流れとは一線を画すもので、興行的には振るわず、70年代から続いていた民国時代を舞台にした功夫コメディ映画の最後の一作として記憶されています。

主なキャストとストーリー

本作の主人公チェンを演じるのはドニー・イェンです。彼は塩問屋の次男で、街で傍若無人に振る舞うトゥオという少年を懲らしめることから物語は始まります。トゥオは彼に報復を誓い、さらなる事件へと発展します。家族を殺されたチェンは、サポートを受けながら太極拳の修行を始めます。そして、彼の父と兄の死の真相を知ることになり、復讐を決意するという展開です。

映画には、ユエン・ウーピンの弟であるユエン・チュンヤンが師匠役を演じ、その妻であるリディア・サムが「女デブゴン」として登場します。彼女は香港で非常に人気のある女優で、バラエティ番組にも頻繁に出演していました。

ドニー・イェンのデビュー作

ドニー・イェンにとって、この映画は俳優としての第一歩を踏み出す重要な作品でした。彼は撮影当初、カメラ前で緊張し、混乱していたと後に語っています。当時は一台だけのカメラで、プレイバックもない、非常にシンプルな形態での撮影が行われていました。功夫映画の撮影は、台本に沿った芝居が求められず、何度も同じ動きを繰り返すうちに技術を磨いていくというスタイルが一般的でした。このような経験は、彼の俳優としての成長に大きく寄与したことでしょう。

結論

『ドラゴン酔太極拳』は、コメディとアクションの魅力を兼ね備えた興味深い作品であり、ドニー・イェンのキャリアの出発点としても重要な役割を果たしました。香港映画史の中で特異な位置を占めるこの映画は、功夫コメディの名作として記憶されることが期待されます。

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