ドリコス走

ドリコス走（Dolichos / Dolichus）

ドリコス走とは、古代ギリシア時代に重要な競技種目の一つとして確立されていた長距離の徒競走競技を指します。その名称はギリシア語の「長い」を意味する言葉に由来するとされ、他の短距離種目とは一線を画す、特に持久力と精神力が要求されるレースでした。

この競技が古代オリンピックという神聖な祭典の公式種目として採用されたのは、紀元前720年に開催された第15回目の大会からのことです。これは、古代オリンピックの歴史において比較的早い段階での追加であり、当時のギリシア社会において長距離走が競技として重要視されていたことを示しています。第1回大会から行われていたスタディオン走（約190mの短距離走）などに加え、ドリコス走が加わることで、オリンピックの陸上競技プログラムは多様性を増しました。

ドリコス走の具体的な競走距離は、オリンピックが開催されるポリス（都市国家）や大会によって一定ではなかったと記録されています。しかし、一般的な目安としては、古代ギリシアの基本的な距離単位である1スタディオン（これは現代の約190メートルに相当します）の直線コースを複数回、具体的には約10往復する形式で行われたと考えられています。この往復によるコース設定は、観客が競技の進行をより長く見守ることを可能にしたと考えられます。したがって、総走行距離はおおよそ3.8キロメートル程度に及んだとされています。これは現代の陸上競技における中長距離レースに匹敵し、当時の選手にとっては非常に挑戦的な距離であったと言えるでしょう。

この歴史あるドリコス走において、記念すべき最初の優勝者として名を残しているのは、紀元前720年の第15回大会で栄冠を勝ち取った、スパルタ出身のアカントスです。スパルタは厳格な規律と身体鍛錬で知られるポリスであり、その出身者が初代王者となったことは、当時の陸上競技におけるスパルタ選手の強さを示す事例と言えます。

さらに、このアカントスには、古代オリンピックの歴史における興味深いい逸話が残されています。それは、彼がこのドリコス走で競技中に裸体となった最初の人物であるという伝説です。当時の競技者は当初、腰布などを着用していたとされますが、アカントス以降、裸体での競技が一般的になったという説があり、彼の行動が古代オリンピックにおける選手の装束の変遷に影響を与えた可能性も指摘されています。ただし、この逸話については諸説あり、「とも言われる」という形で伝えられています。アカントスの勝利とその逸話は、初期の古代オリンピックにおける印象的な出来事の一つとして語り継がれています。

このように、ドリコス走は古代ギリシアの競技文化において重要な位置を占め、選手たちの持久力と精神力を試す過酷なレースとして、また初期のオリンピックにおける歴史的な出来事や人物像とも結びついて、今日にその名を伝えています。

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