ドーノワ夫人

ドーノワ伯爵夫人：妖精物語の先駆者、波乱万丈な生涯

マリー＝カトリーヌ・ル・ジュメル・ド・バルヌヴィル、通称ドーノワ伯爵夫人は、17世紀フランスを代表する作家の一人です。彼女は「妖精物語（contes de fées）」という言葉を自作に冠し、このジャンルの確立に大きく貢献しました。その生涯は、貴族社会の華やかさとは裏腹に、スキャンダルと陰謀に満ちたものでした。

生涯：陰謀とスパイ活動

1650年または1651年に貴族の家に生まれたドーノワ夫人は、15歳で30歳年上のドーノワ男爵と結婚します。しかし、夫は自由主義者で賭博好き。結婚生活はすぐに暗転し、夫は反逆罪で告発され、バスティーユに3年間投獄されるという事態に発展します。ドーノワ夫人自身も逮捕状が出され、教会に隠れて難を逃れるなど、波乱万丈な日々を送りました。

一説によれば、彼女はフランスのスパイとしてオランダ、スペイン、イギリスで活動していたとも言われています。1685年にパリに戻り、自宅でサロンを主宰し、多くの貴族や文化人と交流しました。しかし、友人であったアンジェリーク・ティケの使用人が、アンジェリークの夫を殺害するという事件に関与した疑いをかけられ、社交界から遠ざかることになります。

作品：妖精物語と回想録

ドーノワ夫人は、『妖精物語』、『妖精物語または当世風の妖精』といった妖精物語集や、自身の経験に基づいた擬似回顧録、歴史小説など、12冊もの著作を出版しました。彼女の妖精物語は、グリム兄弟のメルヘンとは異なり、会話形式で語られるのが特徴です。獣の花嫁や花婿が登場する物語が多く、ヒロインが様々な困難を乗り越えて愛と幸福を手に入れるという展開がよく見られます。

また、『スペイン回想記』や『イングランド宮廷回想録』といった旅行回想録も執筆しており、当時の宮廷生活を垣間見ることができます。ただし、これらの回想録には盗用や捏造の疑いも指摘されています。

ドーノワ夫人は、その著作活動を通じて得た収入で3人の娘を育てました。彼女の作品は、当時の批評家からは単なる気晴らしと見なされていましたが、今日では妖精物語の先駆者として高く評価されています。

子女

ドーノワ夫人は6人の子を儲けています。

マリー＝アンジェリーク（1667年 - 夭折）
ドミニク＝セザール（1667年 - 夭折）
マリー＝アンヌ（1667年 - 1726年以前没）：バルヴァニーユ夫人
ジュディット＝アンリエット（1669年 - 1711年より後）：バルセント侯爵夫人
テレーズ＝エイメ（1676年 - 1726年より後）
フランソワーズ＝アンジェリーク＝マクシム（1677年ごろ - 1727年）

主な著作

『デュグラ伯爵イポリットの物語』(Histoire d'Hippolyte, comte de Duglas) (1690)
『スペイン回想記』(Memoire de la cour d'Espagne) (1690)
『仙女物語』『妖精物語』（Les Contes des Fées） (1697)
『妖精物語または当世風の妖精』（Contes Nouveaux ou Les Fées à la Mode）(1698)

ドーノワ夫人の作品は、現代においても様々な形で翻訳、再話されており、多くの人々に愛されています。彼女の生涯と作品は、17世紀フランスの社会と文化を理解するための貴重な手がかりとなるでしょう。

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