ナウ・アンド・ゼン (ビートルズの曲)

ナウ・アンド・ゼン：ビートルズ最後の新曲の誕生秘話

1996年の『リアル・ラヴ』以来、実に27年ぶりの新曲にして、ビートルズ最後の新曲として発表された「ナウ・アンド・ゼン」。その誕生には、ジョン・レノンの未発表音源、高度なAI技術、そしてメンバーたちの長年の思いが凝縮されています。

ジョン・レノンの遺志

この曲は、1970年代後半にレノンが自宅でカセットレコーダーに録音したデモ音源が元になっています。ピアノ伴奏によるラブソングで、当初は「I Don't Want to Lose You」や「Miss You」といったタイトル候補もありました。しかし、レノン急死により、完成には至りませんでした。1994年の『ザ・ビートルズ・アンソロジー』プロジェクトで、メンバーはジェフ・リンと共にこの曲を完成させる試みを始めますが、当時の技術ではノイズ除去が困難だったため断念。幻の曲として長年埋もれていました。

復活への道：AI技術の活用

2021年、ポール・マッカートニーは、この曲を完成させたいという強い思いを抱きます。そして注目したのが、『ザ・ビートルズ：Get Back』制作時に開発されたAI技術「デミックス」です。この技術は、モノラル音源を高精度にステレオ化するもので、ジャイルズ・マーティンらによってビートルズのアルバム『リボルバー』のリミックスにも利用されていました。

マッカートニーは、この技術をレノンのデモ音源に応用することを提案。ウィングナット・フィルムズのサウンドチームは、ショーン・レノンから提供された音源をもとに、レノンのボーカルをノイズから分離することに成功しました。こうして、クリアなレノンのボーカルを手に入れたマッカートニー、リンゴ・スター、そしてマーティンは、新曲制作に取り組みます。

新たな息吹：現代技術とメンバーの技

彼らは、レノンのボーカルを生かしつつ、新たなアレンジを加えました。ジョージ・ハリスンが1995年のセッションで録音したギター、スターの新録音ドラム、マッカートニーのベースとギター、そしてマッカートニーが作曲したストリングスアレンジが加えられました。さらに、マッカートニーはレノンのピアノ演奏を模倣し、ハリスン風のギターソロも披露。マッカートニーとスターはバッキング・ボーカルも担当しました。

ミックスにはビートルズの名曲「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」「エリナー・リグビー」「ビコーズ」のバッキング・ボーカルが巧みに織り込まれ、繊細な仕上げがなされました。プロデュースはマッカートニーとマーティン、ミックスはスパイク・ステントが担当しました。

世界へ：リリースと反響

2023年11月2日、全世界へデジタル配信、そしてアナログ盤、CDシングル、カセットテープという形でリリースされました。ミュージックビデオは、ピーター・ジャクソン監督が手がけ、過去の貴重な映像と新撮影映像を組み合わせた、感動的な作品に仕上がっています。

リリースと同時に、世界中で大きな反響を呼びました。全英シングルチャートでは54年ぶり、全米Billboard Hot 100では1996年以来のトップ10入りを果たし、日本では53年ぶりのトップ10入りという快挙を成し遂げました。

映画『ARGYLLE/アーガイル|ARGYLLE_アーガイル』への楽曲提供

2024年2月公開の映画『ARGYLLE/アーガイル|ARGYLLE_アーガイル』では、「ナウ・アンド・ゼン」が挿入歌として使用されました。映画のプロデューサー、ジャイルズ・マーティンからの提案によって実現したもので、原曲に加え、インストゥルメンタルバージョン、オーケストラバージョンも使用されています。

結語

「ナウ・アンド・ゼン」は、ジョン・レノンの未発表音源、高度なAI技術、そして残されたメンバーたちの情熱と技術の結晶です。単なる新曲という枠を超え、ビートルズの音楽史に新たな1ページを刻んだ、奇跡の作品と言えるでしょう。

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