ナベカムリ属

ナベカムリ属（Arcella）

ナベカムリ属（学名：Arcella）は、殻（テスト）を持つアメーバ、いわゆる有殻アメーバの中で、特によく知られ、多くの種が記載されている主要なグループの一つです。これらの原生生物は、自身で分泌した物質を材料にして独特な形状の殻を作り出す特徴があります。

特徴

ナベカムリ属のアメーバは、分泌物から作られる丈夫な殻に覆われています。この殻はしばしばキチン質を主成分とすると考えられており、外側には砂粒のような外部の物質をほとんど付着させないのが一般的です。殻の形状は円盤形やドーム状など、やや扁平な形をしています。

殻の下面、ちょうど中央部分には開口部があり、これを偽口部（ぎこうぶ）と呼びます。アメーバ本体は殻の中に収まっており、この偽口部から葉状の仮足（かそく）を伸ばして移動したり餌を捕らえたりします。ナベカムリ属の仮足は、一般的なアメーバ（Amoeba属）のものと比べて、より細い棒状に見えます。

殻は小さな六角形の単位構造（アレオール、areole）が組み合わさって構成されています。殻の大きさは種によって異なりますが、日本で広く見られるナベカムリ（Arcella vulgaris）の場合、殻の直径は約100～150マイクロメートル（μm）程度です。殻はしばしば褐色を帯びており、上から観察すると中央の偽口部が透けて明るく見えるため、まるでドーナツのような独特な外見を呈することがあります。

細胞内には通常2つの核が存在しますが、それ以上の核を持つ例も報告されています。

分布と多様性

ナベカムリ属には、これまでに130種を超える種が記載されています。しかし、種の識別は容易ではありません。これは、形態的な特徴に加えて、殻の大きさや各部のサイズ比率が重要視される一方で、生息環境によって形態に変異が生じやすいこと、また古い時代の記載が不十分であったり、少数の標本に基づいていたりと、判断を難しくする要因が多いためです。

世界的に広範囲に分布するコスモポリタンな種が多い一方で、特定の限られた地域にのみ生息する固有種も存在します。特に南半球など、まだ詳しく調査されていない地域も多く、今後さらに多くの新種が発見される可能性が考えられています。

生態

ナベカムリ属のアメーバは主に淡水域に生息しています。湖沼や池、水たまりといった止水域だけでなく、水がよく染み込んだコケの中や、湿った土壌からも見つかることがあります。これらは通常、水底の泥や水草の上をゆっくりと這って移動します。また、水中に漂うプランクトンとして観察されることもあります。

食性としては、主に藻類などを捕食すると考えられています。

繁殖

ナベカムリ属の主な繁殖方法は細胞分裂です。分裂に際して、まず母細胞の古い殻の底面に接するようにして、新しい殻が形成され始めます。この新しい殻が形成される間、細胞内の物質は古い殻と新しい殻の間を活発に行き来します。新しい殻が十分に完成すると、続いて細胞自身の分裂が起こり、2つに分かれた細胞質がそれぞれ古い殻と新しい殻に収まります。最後に、2つの個体は分離して独立した生活を始めます。

分類

ナベカムリ属内の種は、主に殻の形態的な特徴によって区別されます。例えば、殻の輪郭が滑らかなもの、多角形を呈するもの、殻の縁に明瞭な稜や突起を持つものなど、様々なタイプがあります。ただし、これらの明確な形状だけでなく、殻の直径や高さ、偽口部の直径、そしてそれらの比率といった微細な測定値も、種を区別する上で重要な基準となります。

日本からは、前述のナベカムリ（Arcella vulgaris）が代表的な種として古くから知られています。その他にも、スナナベカムリ（A. arenaria）、オカメナベカムリ（A. artocrea）、トゲナベカムリ（A. dentata）、ヒラナベカムリ（A. discoides）などの種に和名が与えられています。これらの他にも、多くのナベカムリ属の種が日本国内から報告されています。

類似する原生生物

ナベカムリ属に形態的にやや類似する有殻アメーバも存在します。

フセツボカムリ属（Centropyxis）：この属の一部も扁平な殻を持ち、下面に偽口部を持つ点が似ています。しかし、フセツボカムリ属の偽口部は殻の中央からずれて配置されることが多く、殻全体として左右相称になる傾向があります。また、殻の表面に分泌物だけでなく、周囲の砂粒や有機物などの外部物質を積極的に貼り付ける点でもナベカムリ属とは異なります。
*Archerella属（Archerella）：この属も褐色の殻を持つ種が知られていますが、殻の開口部が2か所あること、仮足が葉状ではなく糸状であること、そして細胞内に共生藻類を持つことなど、ナベカムリ属とは明確な違いがあります。分子レベルでの解析では、Archerella*属はナベカムリ属を含むアメーバ門とは系統的に離れており、むしろ淡水性のラビリンチュラ類に近いことが示されています。

これらの類似属との比較を通じて、ナベカムリ属のユニークな特徴がより一層明確になります。

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