ナンカー・フェルジ

ローリング・ストーンズの輝かしい歴史において、楽曲制作に携わったクレジット名として知られるのが「ナンカー・フェルジ (Nanker Phelge)」です。この謎めいた名前は、主にミック・ジャガーとキース・リチャーズ以外、つまりバンドの他のメンバーが作曲または作詞に貢献した楽曲に用いられました。 しかし、その使用頻度は高くなく、1965年頃には使用されなくなりました。

ストーンズは初期において、アメリカ合衆国の黒人ブルースミュージシャン達からの影響を色濃く反映した楽曲を演奏していました。しかし、1964年頃からオリジナル楽曲の制作に力を入れるようになり、ジャガーとリチャーズによるソングライティングチーム「ジャガー/リチャーズ」が中心的な役割を果たすようになりました。 ストーンズのオリジナル曲のほとんどは彼らの手によるものですが、ナンカー・フェルジ名義の作品の存在は、他のメンバーの楽曲制作への関与を示唆しています。

ナンカー・フェルジという名前の由来は、いまだに謎に包まれています。 バンドメンバー自身もその詳細を明かしておらず、いくつかの説が飛び交っています。 一説には、メンバー間の冗談や内輪話から生まれた造語であるという説があります。「ナンカー」は日本語の「あかんべえ」のような、人をからかう表現であるという説や、バンドメンバー共通の友人への言及であるという説も存在します。 しかし、これらの説は確証に欠け、憶測の域を出ません。

有力な説として挙げられるのは、ブライアン・ジョーンズに関連する説です。ブライアン・ジョーンズはストーンズの初期メンバーであり、ギタリストとして重要な役割を果たしていました。 この説では、ナンカー・フェルジはブライアンの変名、あるいは彼のアイディアを基にした楽曲に用いられたクレジット名であるとされています。 この説を裏付ける証拠として、ブライアンの名前がクレジットに含まれていないにも関わらず、毎年彼の遺族に印税が支払われているという事実が挙げられます。

さらに、ビル・ワイマンが自身の自伝「ストーン・アローン」の中で、ミックとキース以外のメンバーが楽曲制作に大きく関わった場合、彼らの権利を主張するためにナンカー・フェルジというクレジット名を考案したと述べています。 これは、楽曲の著作権や印税配分における複雑な事情を反映していると言えるでしょう。 つまり、ジャガーとリチャーズが主導権を握る一方で、他のメンバーの貢献も適切に反映する必要があったという背景が考えられます。

ナンカー・フェルジ名義で発表された楽曲には、「ストーンド」「リトル・バイ・リトル」「ナウ・アイヴ・ゴット・ア・ウィットネス」「エンプティ・ハート」「南ミシガン通り2120」「ウエストコーストの宣伝屋」「プレイ・ウィズ・ファイア」「アイム・オールライト」などがあります。 これらの楽曲は、ストーンズの初期作品に含まれており、バンドの音楽的進化の過程を垣間見ることができます。 楽曲制作における役割分担やクレジットの扱い方は、バンド内部の複雑な人間関係や音楽性の多様性を反映し、ストーンズの歴史における興味深い一側面と言えるでしょう。

ナンカー・フェルジは、ローリング・ストーンズの楽曲制作における隠された側面を浮き彫りにする、謎めいたクレジット名です。 その由来や使用目的については未だ不明な点が多く残されていますが、バンドの初期の歴史と、メンバー間の関係性、そして楽曲の著作権という重要な要素を理解する上で、無視できない存在と言えます。 謎に包まれたナンカー・フェルジの真実解明は、ストーンズ研究における重要な課題であり続けるでしょう。

もう一度検索