ニトラム/NITRAM

ニトラム/NITRAM：オーストラリアを震撼させた悲劇の実録

2021年、オーストラリアで製作されたクライム映画『ニトラム/NITRAM』は、1996年に同国タスマニア島ポートアーサーで発生した無差別銃乱射事件を基に、犯人マーティン・ブライアントの生涯を描いた作品です。映画のタイトル「ニトラム」は、マーティンの名前を逆さ読みしたもので、幼少期に同級生から嘲笑的に呼ばれていた蔑称です。

この映画は、知的な遅れを抱える青年ニトラム（マーティン・ブライアント）の複雑な内面と、彼を取り巻く環境、そして事件に至るまでの過程を丁寧に描き出しています。幼少期の花火事故、近隣住民との摩擦、歪んだ人間関係、そして社会との断絶。それらが複雑に絡み合い、ニトラムの心を蝕んでいく様子が克明に表現されています。

ニトラムは両親とオーストラリアのポートアーサーで暮らしていました。幼い頃の花火事故で負傷し入院した際に、地元記者にインタビューを受け、その様子が撮影されています。大人になっても、彼は花火を扱ったり、近所の子供に爆竹を渡したりするなど、危険な行為を繰り返していました。そのため、近隣住民からは疎ましく思われていました。

彼の父親は融資を受け、B&Bを購入しようと計画し、ニトラムにも経営を手伝わせようと考えていましたが、うまくいきません。ニトラムはサーフィンをする女性に惹かれるも、彼女のボーイフレンドから冷たくあしらわれ、そのボーイフレンドに憧れを抱くようになります。サーフボードを買おうとしますが、母親は反対します。

生活費を稼ぐため、ニトラムは近所の庭の手入れなどをしますが、その中で裕福な元女優ヘレンと出会います。二人は親しくなり、ヘレンはニトラムに車を与えます。次第に両親との関係が悪化したニトラムは、ヘレンの邸宅で同居を始めます。そこで彼はエアライフルで遊び始め、ヘレンに本物の銃を欲しがりますが、彼女は拒否します。

ニトラムの誕生日、カフェでヘレンを両親に紹介する席で、母親はニトラムの奇妙な過去を明かします。幼い頃、ニトラムは迷子になったふりをし、母親を心配させて楽しんでいたというのです。さらに、彼は無免許運転もしていました。

その後、ニトラムはヘレンを誘ってロサンゼルスへ行く計画を立てますが、空港に向かう途中で事故を起こし、ヘレンを死なせてしまいます。警察には嘘の証言をし、多額の遺産を相続したニトラムは、酒に溺れるようになります。

憧れのジェイミーと接触するも、ジェイミーから「ニトラム」と蔑称で呼ばれ、その言葉に苛立ちを感じながらも、自身の気持ちを抑えきれずにいました。一方、父親は不動産購入に失敗し、鬱状態に陥ります。ニトラムは父親に暴力を振るい、ますます孤立を深めていきます。

ヘレンの遺産を使い、父親が購入しようとしていた物件の老夫婦から無理やり物件を買おうとしますが断られます。数日後、父親は自殺します。父親の葬儀に派手な服装で現れたニトラムに、母親は驚き、帰ろうと促します。

ますます孤立したニトラムは、ヘレンと行くはずだったロサンゼルスを一人で訪れ、ビデオカメラで旅行の様子を撮影します。帰国後、彼は無免許で銃器店から銃を購入し、射撃訓練を始めます。

ある日、テレビでスコットランドの小学校で起きた銃乱射事件のニュースを見ます。ニュースで犯人は「はみ出し者」「孤独者」などと呼ばれていました。ニトラムは、ヘレンの犬を住宅街に放し、その後、父親が購入しようとしていた物件に住む老夫婦を殺害します。そして、両親とヘレンが彼の誕生日を祝ったカフェへ行き、乱射事件を起こします。

この映画は、ニトラムという一人の青年の悲劇を通して、社会の闇や人間の心の複雑さを浮き彫りにしています。彼の行動の背景には、幼少期のトラウマや、周囲からの理解不足、社会的な孤立など、様々な要因が複雑に絡み合っています。

『ニトラム/NITRAM』は、単なる事件の再現ではなく、社会全体への深い問いを投げかける、重厚で衝撃的な作品です。観る者それぞれが、この映画から様々な解釈を読み取ることができるでしょう。

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