ニュース・オールナイト

「ニュース・オールナイト」は、1980年代にラジオたんぱ（現在のラジオNIKKEI）の第1放送で、深夜から早朝にかけて届けられた画期的なニュースワイド番組です。

番組開始の背景

1980年4月1日未明（3月31日深夜）に放送が開始されたこの番組は、当時のメディア環境において異彩を放っていました。1980年代初頭、日本のテレビやラジオでは深夜帯に定期的な定時ニュース番組がほとんど存在せず、最新の情報をリアルタイムで入手することは困難でした。特に国際情勢、例えば1970年代後半からの緊迫する中東情勢や、日本が真夜中でも欧米では日中でありマーケットや社会が動き続けているといった状況を考えると、タイムリーな情報提供の必要性は高まっていました。しかし、多くの放送局は深夜から早朝にかけて放送を休止しており、朝刊や朝一番のニュースを待つ以外に最新情報を得る手段は限られていたのです。

「ニュースは眠らない」コンセプト

ラジオたんぱは、開局以来、深夜の英語ニュースなど専門的かつ速報性の高い報道番組に実績がありました。この経験を活かし、「ニュースは眠らない」というコンセプトのもと、日本では初めてとなる深夜連続報道番組として「ニュース・オールナイト」を企画します。番組の構想にあたっては、すでに1980年代には報道専門局が定番となっていたアメリカのラジオニュース番組事情が参考にされ、速報の重要性が強調されました。

番組フォーマットと内容

番組は平日（カレンダー上は火曜から土曜）の午前0時30分から5時30分まで、実に5時間にわたって放送されました。基本的な放送形式は、1時間枠で制作された番組を事前に収録し（いわゆる完パケ）、これを午前0時30分の初回放送を含め、毎時30分を起点に合計5回繰り返すというものでした。ただし、単なる再放送ではなく、新しいニュースや速報が入った場合には、新聞が「版」を重ねるように、その都度生放送で最新の情報に差し替えるという柔軟な対応が取られました。内容は一般、経済（QUICK提供）、海外、文化、スポーツ（デイリースポーツ提供）、天気予報と多岐にわたり、スポーツニュースを除けば、その多くは日本経済新聞の当日朝刊早版の抜粋がベースとなっていました。情報量の豊富さも番組の魅力の一つで、「1時間に伝えるニュースは60本」と言われるほどでした。

制作体制とキャスター

番組の運営コストを抑えるため、キャスターは一般公募で選ばれた女性たちが日替わりでペアを組んで担当しました。当時の男女雇用機会均等法を見据えた意欲的な試みとも言え、女性キャスター時代の牽引役の一つとなりました。アナウンサー経験がない大学生やOL、主婦など、多様な背景を持つメンバーが集まりましたが、経験が浅いことによる放送上の小さなミスが皆無ではなかったとされます。番組開始当初は日本経済新聞東京本社の電波報道部内にスタジオが設けられていましたが、後に赤坂のスタジオに移っています。

特筆すべき対応と影響

速報性を重視する姿勢は徹底しており、例えば春闘による大手私鉄のストライキが予定されていた際には、ほぼ終夜にわたって生放送を実施し、刻々と変化する情勢に即応した報道を行いました。この革新的な試みは、雑誌でも取り上げられるなど注目を集めました。また、朝刊の配達が遅れる離島や山間部などでは、早朝の情報源として活用されるなど、一部地域では重要な役割を果たしました。当時のテレビ局からは「夜中にニュースをやるのは脅威だ」という警戒感を持たれたとも伝えられています。しかし、その存在は日本のメディア界に大きな影響を与えました。それまで報道が手薄だった深夜時間帯のニュース枠を開拓した先駆者となり、その後の在京キー局によるニュース専門チャンネルの開局や、深夜・早朝の定時ニュース番組の拡充といった流れを作る上で重要な礎となったとされています。

終焉

「ニュース・オールナイト」はその役割を終え、後継番組として『ニュースTODAY ミッドナイトエクスプレス』（後に放送時間を短縮し『経済ミッドナイトエクスプレス』へ移行）へと形を変えながら深夜ニュースは続きましたが、バブル経済の崩壊といった社会情勢の変化と共に、1990年代初頭にラジオたんぱにおける深夜の終夜報道番組はその歴史に幕を下ろしました。

番組のオープニングテーマ曲にはイエロー・マジック・オーケストラ（YMO）の『ライディーン』、エンディングテーマ曲には同じくYMOの『コズミック・サーフィン』が使用されていました。この番組は、当時の日本のメディア環境に一石を投じ、後の報道のあり方に影響を与えた、記憶されるべき番組の一つと言えるでしょう。

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