ヌマエビ

ヌマエビ（Paratya compressa）

ヌマエビ、学名 Paratya compressa は淡水に生息するエビの一種で、日本の主に西日本および南西諸島の河川に生息しています。このエビは分類に関する混乱があったものの、近年の研究により、代表的な特性が明らかになっています。特に「ヌマエビ小卵型」、「ヌマエビ南部群」、「ヌマエビB型」などの呼称で知られる本種は、同属のヌカエビ P. improvisa との比較で面白い特徴を持っています。

特徴

成体のヌマエビは、最大で40 mmの体長に達し、メスはオスよりも大きいことが多いです。身体の特徴としては、複眼の後ろにある「眼上棘」と呼ばれる構造や、すべての歩脚に外肢が存在します。第1および第2の胸脚は鋏脚であり、その先端には剛毛が覆われています。額角部分には上縁に16から31個の鋸歯状の棘（通常19-22）があり、下縁には1から5個の棘が存在します。

体色に関しては、メスが透明な褐色で、背中の中央に黄褐色の縦線があり、その縦線が腹の後端で横に分岐しています。また、体側には黒褐色の斑紋と黄白色の小さな斑点が見られます。

ヌマエビの分布域は広く、北海道（移入）から新潟、千葉以西の本州、四国、九州、そして沖縄の琉球列島に及びます。朝鮮半島南部においても本種の存在が報告されていますが、本州ではヌカエビとその分布が重なっている地域も見られます。

生息環境と繁殖

ヌマエビは温暖な海域に流入する河川に生息しており、上流から河口域まで分布しています。特に大雨などによる増水の際には、河口干潟で見かけることもあります。名前に「沼」とあるものの、実際には河川が主な生息地であり、湖沼に生息する場合は川や海と連続性があるところに限られます。

繁殖期は主に3月から10月であり、盛期の7月から8月の間にメスは何度か産卵を行います。卵の大きさは長径0.45 mmと短径0.25 mmの楕円形で、1回の産卵数は1000から5000個に達します。卵から孵化した幼生は海に流れ込み、海中で成長した後に稚エビとして河川に戻る回遊を行うため、日本において両側回遊をする唯一の種です。このような生態も、他のヌマエビ属と区別する要因となっています。

人間との関わり

人間との関連では、ヌマエビはアクアリウムや釣り餌などに利用されます。しかし、流通の際には、似たような見た目のミゾレヌマエビと混同されることが多いです。また、東北地方では茹でたり炒ったりしたヌマエビを使った「えびもち」という餅料理が人気です。

環境面では、農薬や河川の改修による生息環境の変化が脅威となり、地域によっては絶滅危惧種となっています。各地のレッドリストによると、千葉県では絶滅危惧II類、滋賀県や京都府では準絶滅危惧、岡山県では「留意」として登録されています。

分類の混乱

過去には、日本産のヌマエビは複数の亜種に分類されていましたが、池田らの研究によって整理され、現在では「ヌカエビ P. improvisa」と「ヌマエビ P. compressa」として把握されています。また、小笠原諸島では新種のオガサワラヌマエビも報告されており、その生態や分布は今後の研究においても注目されています。

このように、ヌマエビは日本の淡水生態系において重要な存在であり、その多くの特性や生態的役割を理解することが、今後ますます求められています。

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