ネオリアリズム

ネオリアリズム（新現実主義）の解説：国際政治学における構造的現実主義

ネオリアリズム、または新現実主義は、国際政治学を理解する上で欠かせない主要理論の一つです。構造的現実主義とも呼ばれ、国際システムの構造が国家行動を規定するという考え方に基づいています。この理論は、1979年にケネス・ウォルツが発表した『国際政治理論』によって確立され、1980年代のアメリカ合衆国の国際政治学界において大きな影響力を持つようになりました。それ以降の国際関係理論は、ネオリアリズムとその批判を軸に発展を遂げてきました。

ネオリアリズムは、それまでの古典的現実主義を「還元主義」と批判し、国際システム全体を説明することを目指しました。ウォルツは、演繹的な手法を用いて国際システムの構造を分析し、そこから国家間の相互作用を説明しようと試みました。特に、彼の『人間・国家・戦争ー国際政治の3つのイメージ』（1959年）において提示された「3つのイメージ」は、ネオリアリズムの基礎となっています。

ウォルツの3つのイメージ：戦争の原因を探る

ウォルツは、戦争の原因を以下の3つのレベルで分析しました。

1. 第1イメージ（人間レベル）： 個人の本性、例えば自己中心主義や攻撃的な衝動が戦争を引き起こすという考え方です。
2. 第2イメージ（国家レベル）： 国家の国内政治体制や制度、イデオロギーなどが、その外交政策や対外行動に影響を与え、戦争につながる可能性があるという考え方です。
3. 第3イメージ（国際システムレベル）： 国際システムの無政府状態が、国家間の安全保障競争や紛争を引き起こすという考え方です。

ウォルツは、これらのうち第3イメージ、つまり国際システムの構造が最も重要であると主張しました。無政府状態の国際システムにおいては、国家は自らの安全を確保するために、常に他の国家との力関係に気を配りながら行動せざるを得ません。これは、国家が他国より少しでも優位に立ちたいという「相対利得」の追求につながります。

ネオリアリズムの核心：無政府状態と自助システム

ネオリアリズムの核心は、国際システムが無政府状態であるという点にあります。無政府状態とは、国際社会に上位の権力機関が存在せず、国家が主権を有する状態です。このため、国家は自らの安全保障を自ら確保する必要があり、これは「自助システム」と呼ばれます。国家は、他国を信頼せず、常に自国の利益を優先して行動します。

ウォルツは、ルソーの「鹿狩りの寓話」を引用して、自助システム下での国際協力の困難さを説明しています。この寓話では、個々の狩人（国家）が互いに協力して鹿を狩る方が合理的であるにもかかわらず、より多くの鹿を捕まえられる可能性のあるウサギ（近隣の弱小国家）を狙うという、非協力的な状況が示されています。

ネオリアリズムの派生理論：多様な視点

ネオリアリズムは、その後、様々な派生理論を生み出しました。代表的なものとして、以下のものがあります。

防御的現実主義（Defensive Realism）： 国家は、主に生存を目的とした防衛的な行動をとるとする考え方。
攻撃的現実主義（Offensive Realism）： 国家は、常に覇権を目指して攻撃的な行動をとるとする考え方。ジョン・ミアシャイマーが代表的な提唱者です。
* 新古典的現実主義（Neoclassical Realism）： 国内要因も考慮に入れて国家の行動を分析する理論です。

これらの派生理論は、ネオリアリズムの枠組みを踏襲しつつも、それぞれの独自の視点から国際政治を分析しています。

ネオリアリズムへの批判と展望

ネオリアリズムは、その簡潔さゆえに単純すぎるという批判を受けてきました。国家の行動を国際システムの構造に還元しすぎるため、国内政治やリーダーシップといった要因を軽視しているという指摘もあります。しかし、ネオリアリズムの提唱者たちは、この理論が国際政治の大きな部分を説明するのに有効な「強力な懐中電灯」であり、他の理論との補完によってその限界を克服できると主張しています。

ネオリアリズムは、国際関係論における重要な理論であり、その後の研究に多大な影響を与えてきました。今後も国際政治の理解に不可欠な理論として、発展を続けるでしょう。

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