ネパールの映画

ネパール映画：歴史、現状、そして未来

はじめに

ネパール映画は、ネパール語で「チャルチットラ（नेपाली चलचित्र）」と呼ばれ、「動く絵」を意味します。人口や経済規模から考えると、ネパールの映画産業は非常に活発で、カトマンズは「コリウッド」と呼ばれ、インドのボリウッド、ハリウッドになぞらえられています。民主化以降は、インド映画の模倣から脱却し、社会、文化、芸術性を重視した作品制作に転換が進んでいます。しかし、その歴史は、ラナ家による専制政治、パンチャーヤト制、マオイスト内戦など、政治的混乱と表裏一体であり、詳細な記録の不足も課題となっています。本稿では、ネパール映画の歴史を時代背景と共に振り返りながら、現状と課題、そして今後の展望を探ります。

ラナ専制政治時代：映画への弾圧と秘めたる情熱

1896年にインドで映画が初興行された後、1901年にはネパールでも映画の上映が記録されていますが、ラナ家は国民の啓発を警戒し、一般公開を許しませんでした。王宮内では映画が楽しまれていた一方、国民が映画に触れる機会は限られていました。インド独立後の1949年、インド首相ネルーとの会談を機に、国民向け映画館「カトマンズ・シネマ・ガル」が開設されました。しかし、上映作品は保守的で宗教色の強いものに限られていました。この時代、映画広告として街角で映画のワンシーンを即興で演じるパフォーマーも存在し、映画館に行けない人々にとっても楽しみの一つでした。

立憲君主制時代：映画館の増加と国産映画の黎明期

1951年の王政復古後、映画館は増加し、映画が娯楽として定着しました。国産映画製作も始まり、1951年に撮影されたとされる『サッチャ・ハリスチャンドラ』が最初の作品とされています。しかし、パンチャーヤト制の樹立後は、政府による統制が強まり、プロパガンダ映画が制作されました。1960年代には、民間映画製作会社も設立されましたが、政府の規制や検閲が厳しく、制作は容易ではありませんでした。1971年にはロイヤル・ネパール映画公社が設立され、ニュース映画や娯楽作品が制作されましたが、映画法の制定によって政府による検閲が明確化されました。一方、1978年にはビデオの個人所有が許可され、ビデオ映画が盛んに制作されるようになりました。

ビデオ映画の隆盛とネパール映画産業への影響

ビデオの普及は、ネパール映画産業に大きな影響を与えました。ビデオパーラーの増加やビデオ映画の制作により、映画のアクセスは拡大しましたが、無許可上映や海賊版の問題も発生しました。ビデオ映画はネパール映画の技術発展に貢献した面もある一方、商業主義に走った作品も多く、質の向上には結びつきませんでした。1991年から1993年はビデオ映画の最盛期で、その制作本数はセルロイドフィルム映画を上回りました。

民主化以降：映画産業の成長と国際化

1990年の民主化後、映画法の改訂、映画館規制の緩和、映画産業の振興策により、ネパール映画産業は大きく成長しました。海外との共同制作も増え、マサラ映画からの脱却が図られるようになりました。日本、フランス、イギリス、スイスなどとの合作映画が制作され、国際的な評価を得る作品も現れました。また、デジタルシネマの導入も進み、技術的な向上も目覚ましいものがあります。近年は、ネパール映画が国際映画祭で受賞するなど、世界的に注目を集めるようになっています。

結論

ネパール映画の歴史は、政治的混乱や規制、技術革新、国際交流など、様々な要素が複雑に絡み合ったものです。民主化後、ネパール映画は新たな発展の段階に入りましたが、低予算、低品質の問題、観客層の減少などの課題も残されています。今後のネパール映画界の発展のためには、質の高い作品制作、観客層の拡大、国際的な競争力の強化、そして人材育成が不可欠です。ネパール映画の未来に、更なる発展と繁栄を期待したいところです。

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