ネパール制憲議会

ネパールに設けられた制憲議会（ネパール語: नेपालको संविधान सभा）は、国の将来を定める恒久的な憲法を制定することを主な目的とした特別な議会でした。この議会は、立法機関としての機能も併せ持ち、国家元首である大統領や政府の実権を握る首相を選出するなど、極めて重要な役割を担いました。ネパール史上、この制憲議会は二度にわたって設置され、その活動を通じて立憲共和制への移行と新憲法の公布という歴史的な変革を成し遂げました。

設置の背景と制度

制憲議会の設置は、2006年 11月21日にネパール政府と武装勢力であったネパール共産党毛沢東主義派の間で締結された包括的和平協定に基づいて定められました。これにより、長年の内戦に終止符が打たれると共に、新たな国づくりの礎として憲法制定のプロセスが始動したのです。当初、制憲議会の設置期間は2年間が予定されていました。

議会の構成は、国民の直接選挙と指名によって議員が選ばれる仕組みでした。総議席数は601議席で、その内訳は小選挙区制による選出が240議席、政党名簿による比例代表制が335議席、そして残りの26議席は内閣によって指名されることになっていました。候補者は最大で二つの小選挙区から立候補することが認められていました。

第1次制憲議会（2008年 - 2012年）

最初の制憲議会選挙は、包括的和平協定から時を経て、2008年 4月10日に実施されました。選挙の結果、ネパール共産党毛沢東主義派が小選挙区で優位に立ち、比例代表でも一定の票を得て第一党となりました。しかし、議会全体の過半数には遠く及ばず、どの政党も単独で主導権を握ることはできませんでした。この選挙結果は、議会運営における多くの困難を予期させるものでした。

第1次制憲議会は2008年 5月28日に最初の会合を開き、そこでネパールの歴史的な転換点となる重要な議決が行われました。長らく続いていた王制の廃止と、連邦民主共和制への移行が決定されたのです。その後、内閣による指名議員が確定し、大統領、副大統領、議長が選出されました。特に、統一共産党のスバス・ネムワンが正式な議長に就任し、毛沢東派議長のプシュパ・カマル・ダハル（プラチャンダ）が首相に選ばれるなど、新たな政治体制の骨格が形成されました。

しかし、憲法制定の道のりは順調ではありませんでした。和平プロセスの遅れに加え、各政党間、さらには同じ政党内でも激しい対立が繰り広げられました。特に、将来的な連邦制における州の数や境界、名称などを巡る意見の相違は根深く、憲法草案の完成を妨げる要因となりました。当初2年の任期中に憲法を制定できなかったため、議会の任期は幾度か延長されましたが、結局通算で約4年間活動したものの、合意形成に至らぬまま2012年5月28日に解散となりました。憲法制定という最大の目的を達成できなかったことは、大きな挫折でした。

第2次制憲議会（2014年 - 2017年）

第1次制憲議会の解散を受け、新たな憲法制定を目指して再び制憲議会を設置する動きが始まりました。新たな議員を選出するための選挙は当初、2012年11月19日に予定されていましたが、政治的な混乱により延期されました。最終的に、最高裁判所長官であるキル・ラージ・レグミを首長とする暫定内閣の下、主要政党間の合意を経て、2013年11月19日に制憲議会選挙が実施されました。この選挙は国際的な選挙監視団からもおおむね平和裏に行われたと評価されました。

第2次制憲議会選挙では、第1次とは異なりネパール会議派が第一党となり、ネパール統一共産党がこれに続きました。選挙結果を受けて、2014年2月11日にはネパール会議派総裁のスシル・コイララが新首相に選出され、憲法制定作業が本格的に再開されました。

憲法制定に向けた議論が進む中、2015年4月25日にネパール中部を震源とする大規模な地震が発生しました。この未曾有の災害は、国の復興のために一刻も早く新憲法を制定すべきだという国民的な世論を大きく高める結果となりました。この機運を受けて、政治的な対立の最大の懸案事項であった州の区割り問題については、新憲法制定後に設置される専門委員会にその決定を委ねるという形で合意形成が図られました。これにより、憲法草案の最終化が加速しました。

そして、2015年9月16日に制憲議会は新憲法案を圧倒的多数で承認し、同年9月20日、ついにネパールの新憲法が公布されました。これは、第1次制憲議会の挫折から数年を経て、国民の悲願であった憲法制定が実現した歴史的な瞬間でした。新憲法公布後、制憲議会は憲法制定機関としての役割を終え、2017年10月14日にその任期を満了して解散しました。その後、新憲法の下で初の連邦議会総選挙が同年11月に実施され、ネパールは立憲共和制国家として新たな段階へと移行していきました。

ネパール制憲議会は、二度の設置期間を通じて多大な困難に直面しながらも、王制の廃止から始まり、最終的に国の新しい枠組みを定める憲法を完成させるという、ネパール史において極めて重要な使命を果たしました。その活動は、民主化プロセスにおける政治勢力の対立と協調、そして国民の願いがいかに国の進路を左右するかを示す好例と言えます。

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