ノウ・ナッシング

ノウ・ナッシング運動の概要

ノウ・ナッシング（Know Nothing）は、1850年代のアメリカで展開された外国人排斥を目的とする政治的運動であり、時には特定の政党名や団体名としても認識されている。この運動は、主に移民の政治的権利を制限し、反カトリックの精神を基本としていたため、目的対象に対する暴力行為も報告されている。特に、当時多数を占めていたドイツ系およびアイルランド系のカトリック移民は、アメリカ社会での恐怖の対象になっていた。

歴史的背景

1830年から1860年にかけて、多くのカトリック教徒の移民がアメリカに渡ったことから、プロテスタントとカトリック間の緊張が政治的な問題となり始めた。当時、カトリック教会は政治的な独立を主張していたが、プロテスタント側はその影響力を懸念し、権威主義的であると非難していた。特に1848年のヨーロッパの革命における教皇の立場から、カトリックは自由主義や共和制の敵であるとみなされていた。

これに対抗するため、様々な反カトリックの秘密結社が誕生し、その中でも「オーダー・オブ・スター・スパングルド・バナー」などが特に影響力を持つようになった。そして、秘密結社のメンバーに対し、「何も知らない」と答えることが期待されたことで、ノウ・ナッシングという名称が定着した。1855年には「アメリカン党」として初めて政治舞台に登場し、この運動は急速に広がった。

黄金期と衰退

1854年春には、ノウ・ナッシングの影響がボストンやニューヨークなどの都市で顕著になり、選挙では大勝利を収めることができた。特にマサチューセッツ州やペンシルベニア州では、投票の40％を確保するなどの成果を上げた。しかし、党内の混乱や移民に対する恐れが根強く残っていたことにより、その勢いは長続きしなかった。

南部では、ノウ・ナッシングは元ホイッグ党員を中心に構成され、彼らは党を通じて南部の民主党に対抗しようとしたが、期待された成功は得られなかった。1855年の選挙では、限られた治政権を獲得するも、次第に党の支持基盤は崩れ、1856年の大統領選挙では大きな議席を得られずに終わった。

アメリカ社会に与えた影響

ノウ・ナッシング運動は、多くの都市での暴力事件を引き起こすなど、移民問題やカトリック教徒に対する偏見を助長する要因となった。例えば、1855年8月には、選挙戦が激化したケンタッキー州ルイビルで22人が殺される暴動が発生し、この事件はノウ・ナッシングとカトリック教徒の間の緊張の象徴となった。

また、1857年には南部のルイジアナ州やメリーランド州でもノウ・ナッシングの影響を受けた政治運動が見られたが、全体的には北部での影響が強かった。ノウ・ナッシングの綱領には、移民やカトリック教徒に対する厳しい制限、政府職員の必要条件として純粋なプロテスタントへの限定などが盛り込まれていた。このような運動は時に暴力的な手段を使用し、カトリック教徒の権利を侵害する結果となってしまった。

歴史的遺産

ノウ・ナッシング運動は、後の政治運動や市民権運動に影響を与えた。特に移民問題に関する議論は、20世紀のクー・クラックス・クランやその他の排外主義的な運動にも受け継がれた。ノウ・ナッシングという言葉自体は、他者を排除する態度や行動を指す悪意ある用語として、現在でも使用されている。

このように、ノウ・ナッシング運動はアメリカの歴史の中で極めて重要な役割を果たし、移民に対する偏見や外国人排斥が持続的に問題視される背景となった。

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