ノク文化

ナイジェリアの古代文明：ノク文化の謎に迫る

ナイジェリア中央部、ジョス高原を中心に紀元前10世紀から紀元後6世紀頃にかけて栄えたノク文化は、西アフリカを代表する古代鉄器文化です。独特な様式美を持つテラコッタ製の土偶や、当時としては最先端の鉄器生産技術、そして大規模な公共建造物など、数々の謎を残すこの文化は、アフリカの古代史研究において重要な位置を占めています。

ノク文化の発見と研究史

ノク文化の存在が明らかになったのは、1928年、イギリス人鉱山技師J. Dent Youngによる偶然の発見がきっかけでした。錫鉱山の採掘中に、サルの顔のような土偶の破片が発見されたのです。この発見は、その後、イギリス人考古学者バーナード・ファッグらによって本格的な調査へと繋がります。ファッグは、発見場所付近にあったノク村の名にちなんでこの文化を「ノク文化」と命名しました。

1940年代以降、アンジェラ・ファッグやロベール・ソーパーらによる発掘調査が続けられ、多くの土偶や土器、そして鉄器生産の跡などが発見されました。これらの発見は、ノク文化の高度な技術力と豊かな精神文化を示唆するものでした。初期の研究では年代測定が困難でしたが、近年では放射性炭素年代測定や熱ルミネッセンス法などの分析技術の発展により、紀元前900年頃にはすでにノク文化が存在し、紀元後6世紀頃まで続いた可能性が示唆されています。

独特の芸術表現：ノクの土偶

ノク文化で最も有名な遺物は、多様な表情を持つテラコッタ製の土偶です。人物像、動物像、そして抽象的な形をしたものなど、その種類は多岐に渡ります。多くは破損しており、完全な状態のものは少ないことから、呪術的な儀式で使用され、その後破壊された可能性が考えられています。

ノクの土偶は、大きな目と、逆三角形や半円形に沈線で縁取られた独特の顔立ちが特徴です。人物像は、ネグロイドの特徴を持つ様々な髪型の人物が表現されており、アクセサリーを身に着けたものも見られます。これらの土偶は、当時の社会構造や信仰、生活様式を知る上で貴重な手がかりとなります。

高度な技術：ノクの土器と鉄器生産

ノク文化の土器は、ミシン目状の模様や、沈線、盛り上がった斑点など、様々な装飾が施されています。土器の胎土には、土偶と同じ混和材や鉱物が含まれており、土偶と土器の製作において共通の技術や素材が用いられていたことがわかります。

ノク文化のもう一つの特徴は、高度な鉄器生産技術です。発掘調査では、深さ50～60cm、直径1mほどの溶鉱炉跡が発見されています。これらの炉を用いて、矢じりや槍先、そして腕輪などの鉄製品が生産されていました。アフリカにおける鉄器生産技術において、ノク文化は最古の部類に属すると考えられており、その技術の高度さは注目に値します。

集落構造と公共建造物

ノク文化の集落遺跡は、山頂などの高台に位置することが多く、土器や土偶の破片が散乱しています。これらの遺跡では、長さ数百メートルに及ぶ石材を用いた大規模な構築物が確認されています。これは、集落を防御するための囲壁であったと考えられており、花崗岩などの石材が用いられています。Kochina遺跡はその好例として知られています。集落の中央部にも巨石の石板が壁状に建てられていることがあり、ノク文化における大規模な協同作業を示しています。

後世への影響

ノク文化は、後世の文化にも大きな影響を与えたと考えられています。特に、ナイジェリアのイフェ文化や、中南部アフリカのバンツー文化の彫刻に、ノクのテラコッタ様式が継承された可能性が指摘されています。ノク文化の研究は、アフリカの古代文明史の解明に大きく貢献しており、今後も新たな発見が期待されます。

参考文献

Fagg, Bernard (1977). Nok Terracottas, Ethnographica for the National Museum, Lagos.

Rupp, Nicole, James Ameje, and Peter Breunig (2005). New Studies on the Nok Culture of Central Nigeria, Journal of African Archaeology Vol. 3(2), pp. 283–290.

フィリップソン/河合信和訳『アフリカ考古学』学生社, 1987年（原著; Phillipson, D. W. (1985) African Archaeology, Cambridge University Press）

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