ノロヴバンザド

ナムジリーン・ノロヴバンザド

モンゴルが誇るオルティンドーの至宝

ナムジリーン・ノロヴバンザド（Намжилын Норовбанзад, 1931年11月10日 - 2002年12月21日）は、モンゴルの卓越した女性歌手です。特に、その長く伸びやかな旋律を特徴とするモンゴルの伝統的な民謡形式「オルティンドー」の分野において、彼女は生前、国内で最も権威ある歌手と見なされていました。その功績と地位は計り知れず、モンゴル政府から国家最高功労賞を受賞しており、これは日本の「人間国宝」に匹敵する栄誉とされています。モンゴル国内では、国民的英雄として深く尊敬されています。

輝かしい経歴

1931年、モンゴル国のドンドゴビ県で遊牧民の家庭に生まれたノロヴバンザド氏は、その天性の歌唱力を早くから開花させました。キャリアの転機となったのは、1957年にソビエト連邦のモスクワで開催された世界青少年音楽祭です。ここでオルティンドーを披露し、見事金メダルを獲得したことが、彼女のプロとしての道を切り開きました。この成功を機に、モンゴル国立民族歌舞団の歌手として正式にデビューを果たします。

以来、ノロヴバンザド氏はモンゴルの代表的な芸術家として、世界各地で公演を行い、その素晴らしい歌声を国際的な舞台で響かせました。その活動は高く評価され、数々の栄誉ある賞を受賞しています。1961年には功労歌手、1979年には人民芸術家、そして1984年にはモンゴル国家賞が授与されるなど、その芸術的な功績は国家レベルで認められました。中でも、1999年に受賞したモンゴル国家最高功労賞は、彼女がモンゴルの伝統文化であるオルティンドーを後世に伝える上で果たした役割の大きさを象徴しています。この賞は、文化財保護の観点から日本の人間国宝制度に相当するものと理解されています。

後進の指導と文化振興

舞台での活動に加え、ノロヴバンザド氏はモンゴルの芸術文化の発展と後進の育成にも尽力しました。国立民族歌舞団での歌手としての活動に加え、モンゴル国立芸術大学の主任教授として多くの学生を指導。また、モンゴル国家賞委員会の委員や、モンゴル・オルティン・ドー協会の会長を務めるなど、芸術分野における重要な役職を歴任し、オルティンドーの保存・振興に貢献しました。

日本との深い繋がり

ノロヴバンザド氏は日本とも深い繋がりを持っていました。1978年には国際交流基金が主催した「アジア伝統芸能の交流」のために初めて日本を訪れ、日本の観客にその歌声を紹介しました。その後も日本での活動は続き、1993年にはアジアの文化に貢献した人物に贈られる権威ある賞、福岡アジア文化賞を受賞しました。さらに、2001年には日本のNHKで放送された大河ドラマ『北条時宗』のオープニングテーマ曲の歌唱部分を担当し、日本の視聴者にもその歌声が広く知られる機会となりました。

ナムジリーン・ノロヴバンザド氏は、2002年12月21日に惜しまれつつこの世を去りましたが、彼女がオルティンドーの伝統を守り、その芸術性を高め、世界に広めるために果たした功績は、モンゴル文化史において永遠に語り継がれることでしょう。彼女の歌声は、オルティンドーがユネスコの無形文化遺産に登録されるなど、世界的にその価値が認められる礎となりました。

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