ハイドンの弦楽四重奏曲一覧

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン 弦楽四重奏曲

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンは、「弦楽四重奏曲の父」と称されるほど、このジャンルの発展に極めて重要な役割を果たしました。彼の創作活動において、弦楽四重奏曲は中心的な位置を占めており、その数は膨大に及びます。これらの作品は、アントニー・ヴァン・ホーボーケンによって編纂された目録において「Hob. III」として分類され、体系的に整理されています。

作品番号と出版形態

ハイドンの弦楽四重奏曲の多くは、慣例として6曲ずつまとめて出版されました。今日一般的に用いられている作品番号（Opus番号）は、19世紀初頭にパリでイグナツ・プライエルが手掛けた、ハイドンの弦楽四重奏曲としては初めての全集に基づいています。この全集の出版が、その後のハイドン作品の整理や研究の基礎となりました。

作曲時期の変遷

ハイドンの弦楽四重奏曲の作曲活動は、必ずしも継続的だったわけではありません。初期の作品群は断続的に発表されており、いくつかの「空白期間」が見られます。例えば、1750年代後半に作曲された10曲（作品1および2とされるもの）と、1770年前後に出版された18曲（作品9、17、20）の間には、約10年間のブランクがあります。また、1781年に発表された6曲（作品33）と、それ以前の作品群の間にも同様に長い期間、このジャンルの作曲が見られませんでした。しかし、1787年の作品50以降は、比較的コンスタントに新作が書かれるようになります。

作品数に関する議論

ハイドンの弦楽四重奏曲の正確な総数については、長年にわたり議論が交わされてきました。1805年に作成されたハイドンの作品目録（HV）以降、長い間その数は83曲とされてきました。しかし、これには現在ではハイドンの真作ではないと考えられている作品が含まれている一方、従来の数に含まれていなかった作品も存在します。

具体的には、フンメル社から出版された作品1の1（Hob. II: 6として知られる作品）が、近年ハイドンの弦楽四重奏曲に含められることがあります。その一方で、一般的に作品3として知られる全6曲は、研究の結果、現在ではハイドンの作品ではないと判断されています。さらに、作品1の5、作品2の3、作品2の5とされる作品群は、既存の音楽からの編曲である可能性が高いとされています。また、オラトリオ『十字架上のキリストの最後の7つの言葉』の弦楽四重奏版（7曲）も、ハイドン自身による編曲であるため、純粋なオリジナル作品とは区別されることがあります。これらの疑作や編曲作品を除外した場合、現在ではハイドンの真正な弦楽四重奏曲の数は約68曲と考えられています。ただし、研究の進展により、今後も作品数の見解が変わる可能性はあります。

初期形態と呼称

ハイドンは、彼の創作活動の比較的初期においては、これらの作品を「弦楽四重奏曲（Quartetto）」という題名では呼ばず、しばしば「ディヴェルティメント」と称していました。これは、当時の多楽章器楽曲の形式や性格が多様であったことを反映しています。自筆譜に明確に「Quartetto」という名称が現れるのは、1785年に作曲された作品42になってからです。また、興味深い点として、初期の作品、具体的には作品17までのチェロ声部は、楽譜上で単に「バス（Basso）」と指定されていました。これが純粋にチェロのみを想定していたのか、あるいは当時一般的だったようにコントラバスとのユニゾンや併用を意図していたのかは、必ずしも明らかではありません。この「バス」指定は、初期の弦楽四重奏が、現代のような明確な4つの独立した声部を持つ形態へと発展する過程を示唆しています。

ハイドンの弦楽四重奏曲は、その音楽的な内容の豊かさだけでなく、作品数の特定、作曲時期、初期の呼称や編成といった様々な側面においても、今なお研究対象として深い関心を集めています。

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