ハシエンダ

マンチェスターの音楽史に燦然と輝くクラブ、『ハシエンダ』。1982年5月、ファクトリー・レコードによってオープンしたこのクラブは、単なるダンスクラブの域を超え、1980年代後半を席巻したマッドチェスター・ムーブメントの中核を担う存在となりました。

ファクトリー・レコードは、音楽作品だけでなく、クラブやイベント、さらには様々な活動にまでカタログ番号を付与するという独特な運営方針を持っていました。ハシエンダにも、もちろんカタログ番号が割り当てられており、それは『FAC 51』でした。この番号は、ファクトリー・レコードの歴史において、重要な位置を占める象徴的なものと言えるでしょう。

ハシエンダは、数々の伝説的な夜を生み出しました。当時としては斬新な音楽が鳴り響き、数多くの若者たちが熱狂的な夜を過ごしました。その人気はイギリス国内にとどまらず、海外からも多くの音楽ファンが訪れました。特に、ポップ・アイコンであるマドンナがイギリスで初めて行ったコンサートの会場となったことは、ハシエンダの歴史における大きな出来事の一つとして記憶されています。

しかし、ハシエンダの輝かしい歴史の裏側には、苦悩に満ちた経営状況がありました。低価格での料金設定や、アルコール販売による収益の低迷により、常に赤字経営に苦しむことになります。さらに、ファクトリー・レコード所属アーティストの私生活における浪費なども、経営状況を悪化させる一因となりました。

経営難は深刻化し、1992年にはファクトリー・レコード自体が倒産。ハシエンダはファクトリーレコードから独立し、運営が続けられましたが、その後は麻薬取引や暴力事件といった深刻な問題が発生するようになり、クラブの運営はさらに困難なものとなりました。増加する警備費用も経営を圧迫し、ハシエンダは1997年、ついに閉鎖を余儀なくされました。

閉鎖後、ハシエンダは解体され、その跡地にはマンションが建設されました。しかし、このマンションはクラブ『ハシエンダ』の名を冠しており、その歴史と伝説は現在も人々の記憶に刻まれています。

ファクトリー・レコードの栄枯盛衰を描いた映画『24アワー・パーティーピープル』では、ハシエンダのシーンを撮影しようと、実際にハシエンダの建物を使用することを計画していました。しかし、再開発業者が撮影を待たずに建物を解体してしまったため、オープン当時のハシエンダを再現したセットを制作して撮影する必要が生じたというエピソードがあります。これは、ハシエンダが、どれだけ人々の心に深く刻まれた存在であったのかを物語る象徴的な出来事と言えるでしょう。

ハシエンダは、もはや建物としては存在しませんが、その伝説と影響力は、マンチェスターの音楽シーン、ひいては世界中の音楽シーンに、今もなお深く刻み込まれていると言えるでしょう。

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