ハプスブルクの宝剣

『ハプスブルクの宝剣』

『ハプスブルクの宝剣』は、藤本ひとみによって書かれた歴史小説で、1995年に文藝春秋から出版されました。この作品は、18世紀のヨーロッパ、特に神聖ローマ皇帝家であるハプスブルク家を背景にした物語です。物語の中心には、実質的な統治者であった女帝マリア・テレジアと、ユダヤ人青年エリヤーフー・ロートシルトとの複雑な愛憎関係があります。

この小説では、当時のユダヤ人の社会的立場や生活環境もリアルに描写されており、マリア・テレジアの時代における差別や偏見が如何にユダヤ人の人々の生活に影響を与えたかを浮き彫りにしています。これにより、読者は歴史的な文脈の中で様々なキャラクターの背景や動機を理解しやすくなっています。

登場人物

エリヤーフー・ロートシルト / エドゥアルト・アンドレアス・フォン・オーソヴィル

物語の主人公であるエリヤーフーは、1711年にフランクフルトのユダヤ人地区で発生した火災の際、赤子だった彼をロートシルト家が救い出し育てることになります。彼は後にラビに学び、非常に優れた才能を示しました。特に13歳での成人式を迎えた際には、ラビ文書をほぼ習得していたとされています。しかし、彼は周囲の期待に応える一方で心の閉鎖性を強め、整った教育環境に身を置くために医学校に進学しますが、卒業後の人生は波乱万丈のものになります。

フランクフルトに戻ると、彼は書いたドイツ語訳の律法がユダヤ教のラビから不興を買い、恋人のアーデルハイトを争ってヘッセン・カッセル方伯の嫡男と決闘し、相手を殺害します。この出来事により、方伯からの報復と拷問を受け、深刻な傷を負いますが、その混乱の中で未来の神聖ローマ皇帝フランツと出会い、助けられることになります。最終的に、彼はユダヤ教を捨ててキリスト教に改宗し、新たにエドゥアルト・アンドレアス・フォン・オーソヴィルとして生きる決意を固めます。

モシェ・ロートシルト

モシェはエリヤーフーを引き取った養父であり、フランクフルトでユダヤ人両替商を営んでいます。息子として彼を愛情深く育てるものの、エリヤーフーの抱える内面的な問題に苦労します。

マリア・テレジア

神聖ローマ皇帝カール6世の娘であり、エリヤーフーと複雑に絡み合う運命をたどるキャラクターです。彼女の権力と影響力が物語のフレームを形成します。

フランツ・シュテファン・フォン・ロートリンゲン

後に神聖ローマ皇帝フランツ1世となる人物で、エリヤーフーの重要な交友関係の一部を形成します。

書誌情報

この作品は1995年に文藝春秋から上・下巻が刊行され、その後、1998年に文春文庫としても出版されました。また、2010年には宝塚歌劇団によって舞台化され、2020年にはNHK-FMの「青春アドベンチャー」枠でラジオドラマ化されるなど、多くのメディアを通じてその魅力が広がっています。

この物語は、人間の愛、アイデンティティの葛藤、そして歴史的な背景を持つ力強いドラマとなっており、読者に深い印象を与えることは間違いありません。

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