ハプスブルク法

ハプスブルク法とは

ハプスブルク法（ドイツ語: Habsburgergesetz）は、オーストリア＝ハンガリー帝国崩壊後の1919年3月17日に、カール・レンナー首相によって国民議会に提出され、同年4月3日に可決された法律です。正式名称は「ハプスブルク＝ロートリンゲン家の国外追放と財産没収に関する1919年4月3日の法律」であり、貴族廃止法と共にオーストリア共和国の憲法の一部を構成しています。

ハプスブルク法の沿革

この法律により、ハプスブルク家は財産を没収され、オーストリア国外へ追放されることになりました。ただし、ハプスブルク家の一員であっても、王朝との絶縁と統治権の放棄を宣言した者は、一般市民としてオーストリア国内に居住することが認められました。

フランツ・ヨーゼフ1世の娘であるマリー・ヴァレリー大公女や、その息子フーベルト・ザルヴァトール大公、ヨーゼフ・フェルディナント大公などがこの法律を受け入れました。特にトスカーナ系統の一族に受け入れられることが多く、彼らは原則として私有財産の保持を認められました。

しかし、皇帝カール1世がハプスブルク法を受け入れなかったため、ハプスブルク家は帝冠に基づく財産だけでなく、マリア・テレジアが夫である神聖ローマ皇帝フランツ1世の私的遺産を元に創設した一族の扶助基金なども没収されました。

戦間期から現代へ

戦間期にオーストリアで君主主義的な感情が高まる中で、1935年にはハプスブルク家の財産の一部が返還されました。しかし、ナチス・ドイツによるオーストリア併合後、再び没収されました。戦後、オーストリアが独立を回復すると、1919年の状態に戻り、1935年の返還決定は無効となりました。

1980年には、帝政廃止後に生まれたルドルフ・ハプスブルク＝ロートリンゲンが、ハプスブルク法の適用は不当であると訴え、勝訴しました。これにより、ハプスブルク法の制定以降に生まれたハプスブルク家の一員は、帝位請求権の放棄を宣言しなくてもオーストリアに入国できるようになりました。

1996年3月には、元皇族のフェリックス・ハプスブルク＝ロートリンゲンがハプスブルク法の受諾を拒否したままドイツからオーストリアに入国し、政界で大きな問題となりました。この事件をきっかけに、ハプスブルク法の撤廃を求める声が上がる一方で、帝権と財産の放棄が入国許可の前提であるとする意見も根強く、論争が繰り広げられました。

1998年、連邦議会議長のアルフレート・ゲルストルは、ハプスブルク法が存在する限り、オーストリアが人道的な民主主義国家として世界から信頼されることはないと述べ、廃止に賛成する考えを示しました。2019年現在、財産没収に関する条文は依然として有効です。ハプスブルク家当主のカールは、ハプスブルク法を「ナンセンス」「時代遅れ」と批判しています。

財産返還問題

君主制廃止に伴い財産を没収されたのはハプスブルク家のみであり、エステルハージ家やシュヴァルツェンベルク家などの旧貴族は、現在もオーストリア国内に広大な土地を所有しています。この不平等な扱いは、オーストリア国民の間でも議論を呼んでおり、財産返還を支持する声もあります。

財産没収そのものが不当であるという主張や、第一次世界大戦の開戦責任が当時の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世にあるとしても、ハプスブルク一族全体に責任を負わせるべきではないという主張があります。没収された財産は戦争被害者基金に充てられたため、基金が解散した時点で返還すべきだったとの見解も存在します。

ウルリッヒ・ハプスブルク＝ロートリンゲンは、バイエルンの「ヴィッテルスバッハ家補償基金」をモデルとする解決策を提案しています。現代のハプスブルク家は経済的な格差を抱えており、トスカーナ系の一族はハプスブルク法を早々に受諾したため、多くの資産を保持しています。

ハプスブルク法は、オーストリアの歴史と社会に深く根ざした法律であり、その影響は現代にも及んでいます。

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