ハリエット・タブマン

ハリエット・タブマン：自由への道を切り開いた女性

ハリエット・タブマン（1822年頃 - 1913年）は、アメリカ合衆国を代表する黒人奴隷解放運動家であり、女性解放運動家でもあります。メリーランド州で奴隷として生まれた彼女は、アラミンタ・ロスという名前で、通称ミンティと呼ばれていました。幼少期から過酷な労働を強いられ、奴隷監督からの虐待により、生涯にわたってナルコレプシーとてんかんに苦しむことになります。

1844年頃、自由黒人であるジョン・タブマンと結婚しましたが、1847年、奴隷主の死を機に、脱出を決意します。夫を残して北部フィラデルフィアへ逃亡した彼女は、そこでクエーカー教徒らの支援を受け、奴隷解放運動家たちと交流を深めました。

1850年の「逃亡奴隷法」成立後、タブマンは「地下鉄道」と呼ばれる秘密組織の活動に本格的に参加します。「車掌」として、南部に暮らす黒人奴隷を北部に導く危険な任務に身を投じました。自叙伝には、1850年から1860年の間に約19回も南部と北部の往復を繰り返し、300人以上の奴隷を自由の地に導いたと記されていますが、近年の研究では、その数は13回、70～80人程度と推測されています。しかし、彼女がどれほどの危険を冒して活動していたか、そして成功を収めたかを物語っています。

南北戦争が勃発すると、タブマンは北軍に加わり、料理人や看護婦として働く傍ら、スパイや斥候としても活躍します。1863年には、アメリカ史上初の女性指揮官として兵士を率いて750人近くの奴隷を解放する作戦を成功させました。地方事情に精通していた彼女は、斥候としても高い評価を受けていました。

戦争後、タブマンは北軍への貢献が公式に認められず、生活は困窮します。政府への年金申請は34年後の1899年にようやく認められ、その少ない年金で、1908年には高齢者や貧困者のための施設を設立、晩年はそこで過ごしました。

南北戦争後も、タブマンは黒人や女性の権利のために活動を続け、1869年には自叙伝を出版しました。ジョン・ブラウンやフレデリック・ダグラスといった著名な奴隷解放運動家からもその勇気と功績を高く評価されました。

21世紀に入り、タブマンはアメリカ社会で改めてその功績を称えられています。2016年には、新20ドル紙幣の肖像として採用される計画が発表されました。これは、アメリカドル紙幣に初めてアフリカ系アメリカ人が採用される画期的な出来事でした。しかし、トランプ政権下で計画は棚上げされましたが、2021年、バイデン政権下で再開されました。また、タブマンの功績を紹介する博物館や映画も制作されています。

ハリエット・タブマンの人生は、奴隷制度という不正義に立ち向かい、自由を求めて戦い抜いた一人の女性の物語です。その勇気と献身は、現代においても人々に深い感銘を与え続けています。彼女が残した遺産は、社会正義と平等への闘いにおいて、これからも重要な指針となるでしょう。

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