ハリコフ合意

ハリコフ合意とは

ハリコフ合意は、ウクライナ領クリミアにおけるロシア黒海艦隊の駐留問題を巡り、2010年4月21日にロシアとウクライナの間で締結された条約です。正式には「ウクライナ領内におけるロシア連邦黒海艦隊の駐留に関する問題についての協定」と呼ばれます。この合意により、クリミアにおけるロシア海軍基地の借用期限が2017年から2042年に延長され、さらに5年間の延長オプションも付与されました。

条約の背景

1997年に両国間で締結された「黒海艦隊の地位及び駐留条件に関する分割協定」が、ハリコフ合意の前提となっています。この分割協定では、セヴァストポリにある基地を2017年までロシア黒海艦隊が借用することが定められていました。しかし、ユシチェンコ政権下のウクライナは、2017年以降の延長を認めず、黒海艦隊の撤退を求めていました。

一方で、ロシアとウクライナの間では天然ガス価格を巡る対立が激化していました。ウクライナがロシアに支払うガス料金は2006年と2009年に大幅に値上がりしており、両国間における重要な交渉テーマとなっていました。

交渉の経緯

2010年3月、ウクライナはガス価格の引き下げを求め、ロシアとの交渉を開始しました。その結果、同年4月21日、ロシアのメドヴェージェフ大統領とウクライナのヤヌコーヴィチ大統領は、ロシアがウクライナへの天然ガス価格を30％引き下げる協定に署名しました。この価格引き下げの条件として、ウクライナはセヴァストポリにあるロシア黒海艦隊の基地借用期間を2042年まで延長することに合意しました。また、ロシアには2047年までさらに5年間の延長オプションが付与されました。

この合意は、ロシアにとっては安定的な海軍基地の確保、ウクライナにとってはガス価格の引き下げという、双方にメリットのある内容とされました。しかし、ウクライナにとっては、2009年に締結されたガス供給契約に存在していた、不利な条件がそのまま残る形となりました。

合意の承認と論争

ハリコフ合意は、両国の議会で承認される必要がありました。2010年4月27日、両国議会はハリコフ合意を承認しましたが、特にウクライナでは激しい論争が巻き起こりました。

ウクライナ議会では、議員が演壇に卵を投げつけるなどの騒動も発生しましたが、最終的には承認されました。しかし、野党や一部の専門家からは、この合意がウクライナの憲法に違反しており、国益を損なうものであるとの批判が相次ぎました。特に、軍事基地の恒久的な設置を禁ずる憲法条項や、国家安全保障・国防会議での議論がなかった点が問題視されました。

ロシアによる協定の破棄

2014年、クリミア危機が発生し、クリミアがロシア連邦に編入されると、ロシアはハリコフ合意の法的効力を一方的に否定しました。2014年3月31日、ロシア議会は、満場一致でハリコフ合意を含む二国間協定の終了を宣言しました。

合意に対する批判

ウクライナの専門家であるタラス・クジオは、ハリコフ合意を厳しく批判し、議会や国民の間での議論が十分に尽くされなかったと指摘しました。また、合意がウクライナの憲法に違反していることや、反対派への脅迫や買収があったことも非難しました。さらに、ガス価格の割引は一時的なものであり、結局は公共料金が大幅に値上げされたため、国民は利益を得ていないと主張しました。

合意の影響

ハリコフ合意によって、ウクライナは一時的にガス価格の割引を受けられましたが、その後もガス価格は上昇を続けました。また、ウクライナは2016年までにロシアからのガス輸入を大幅に削減することを目標としましたが、ロシアへの依存度を完全に脱却することはできませんでした。

ハリコフ合意は、ウクライナとロシアの関係における複雑さを象徴する出来事であり、その後の両国関係に大きな影響を与えました。

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