ハルトマン数

ハルトマン数とは、磁気流体力学において重要な役割を果たす無次元数です。この数は、磁場が流体に及ぼす影響の大きさを示す指標として用いられ、流体の挙動を理解する上で不可欠な要素となります。

具体的には、ハルトマン数は以下の式で定義されます。

Ha = BL√(σ/η)

ここで、

Ha：ハルトマン数
B：印加磁場の磁束密度 (Tesla)
L：代表長さ (m) これは系の幾何学的形状に応じて適切に選択されます。例えば、管内流れであれば管の直径、平板流れであれば平板の長さなどが代表長さとなります。
σ：流体の導電率 (S/m)
* η：流体の動粘度 (Pa·s) これは流体の粘性を表す指標です。

この式からわかるように、ハルトマン数は磁場強度(B)、代表長さ(L)、流体の導電率(σ)、そして粘性(η)の4つの物理量によって決定されます。磁場が強いほど、また、流体の導電率が高く粘性が低いほど、ハルトマン数は大きくなります。

ハルトマン数の物理的な意味は、磁場による流体の流れへの影響の度合いを表すことにあります。ハルトマン数が大きいということは、磁場の影響が強く、流体の流れが磁場によって大きく制御されていることを示します。逆に、ハルトマン数が小さい場合は、磁場の影響は弱く、流体の流れは磁場によってほとんど影響を受けないと考えられます。

興味深いことに、ハルトマン数の逆数は、磁場に垂直な面における境界層の厚さに相当します。境界層とは、固体壁面近傍で粘性力と慣性力のバランスによって形成される薄い層のことです。ハルトマン数が大きい、つまり磁場の影響が強い場合、境界層は薄くなります。これは、磁場が流体の流れを抑制し、壁面付近の速度勾配を大きくするためです。

ハルトマン数は、様々な磁気流体力学現象の解析に用いられます。例えば、磁気流体発電機、磁気流体ポンプ、そして核融合炉におけるプラズマ閉じ込めなど、多くの工学的応用において重要な役割を果たしています。これらの応用において、ハルトマン数は系の設計や最適化に不可欠なパラメータとなります。

さらに、ハルトマン数は、地磁気の影響を受ける地球物理現象の解析にも利用されます。例えば、地球内部の電磁流体の運動や、太陽風と地球磁気圏の相互作用の研究などにおいて、ハルトマン数は重要な役割を果たします。

まとめると、ハルトマン数は磁気流体力学において、磁場が流体に及ぼす影響を定量的に評価するための重要な無次元数です。その値は、磁場強度、流体の電気的特性、粘性、そして系の幾何学的形状によって決定され、境界層の厚さとも密接に関連しています。ハルトマン数は、様々な工学的および地球物理学的な現象の理解と解析に不可欠な要素であり、今後もその重要性はますます高まると予想されます。

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