ハンジャル

ハンジャル：中東を彩る伝統短剣

ハンジャル (خَنْجَر, khanjar) は、中東地域で古くから用いられてきた両刃の短剣です。三日月形に湾曲した刃が特徴的で、和訳では「三日月刀」や「半月刀」と呼ばれることもありますが、直線的な形状のものも存在します。ペルシア語由来の言葉で、アラビア語をはじめ、中東周辺の様々な言語に広がり、オスマン朝を通じてバルカン半島にも伝わりました。ドイツ武装親衛隊第13SS武装山岳師団の名称「Handschar」の語源にもなっています。

ハンジャルの歴史と用途

元々は戦闘や狩猟といった実用的な目的で使用され、自衛や暗殺の道具としても用いられていました。しかし、時代とともにその用途は変化し、現在では主に装飾品として用いられることが多くなりました。特にアラビア半島南部（オマーン、イエメン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦）では、男性の装身具として広く着用され、その精巧な作りと高い芸術性から、コレクターの間でも人気を集めています。オマーンでは、国旗のデザインにも取り入れられており、2022年にはその製作技術と社会的慣習がユネスコ無形文化遺産に登録されました。

特に希少な素材、例えばサイの角を柄に使用したものや、銀をふんだんに装飾した豪華なハンジャルは、富裕層や有力者の象徴として、高値で取引されています。

名称と語源

アラビア語ではخَنْجَر (khanjar) と表記され、「（鉄製の）ナイフ」や「大型ナイフ」を意味します。興味深いことに、「乳をたくさん出す牝ラクダ」という意味も持つようです。語源はペルシア語で、「血を出すもの」といった意味合いを持つ言葉から派生したと考えられています。

英語ではKhanjar (ˈkɑːnˌdʒɑːrまたはˈkɑːndʒɑːr) と表記されます。日本語表記は「ハンジャル」が一般的ですが、「クファンジャル」といった誤読に基づく表記も見られます。

ハンジャルの構成要素

アラブ首長国連邦のハンジャルは、主に以下の部分から構成されています。

柄（raʾs/rās）： 頭部を意味する言葉で、動物の角、牙、木材などから作られます。
柄の下部（ṣadr）： 胸を意味する言葉で、幅広くなっており、銀や金の装飾が施されることが多いです。
刃（naṣl）： 刀身。
鞘（qaṭṭāʿa(h)）： 革製で、金糸や銀糸による刺繍が施されるなど、装飾が凝らされています。

ジャンビーヤとシブリーヤ

ハンジャルと似た伝統短剣に、ジャンビーヤ (جَنْبِيَّة, janbīya(h)) とシブリーヤ (شِبْرِيَّة, shibrīya(h)) があります。

ジャンビーヤは、イエメンやサウジアラビアなどで広く用いられており、ハンジャルとよく似ていますが、柄の素材に違いが見られます。ハンジャルの柄は金属製であることが多いのに対し、ジャンビーヤは動物の角や牙、木などが使われることが多いとされています。しかし、実際には両者の間には明確な境界線はなく、共通点も多いです。イエメンでは、ジャンビーヤは男らしさや勇敢さを象徴するだけでなく、出身部族を示すシンボルとしても重要な意味を持っています。

シブリーヤは、レバント地方やサウジアラビア北部で用いられる、ハンジャルの一種で、刃渡りが短いのが特徴です。かつては武器としてだけでなく、泥棒対策としても用いられていました。

ハンジャルの現代における意義

かつては実用的な道具として活躍していたハンジャルですが、現代ではその役割は装飾品へと変化しました。しかし、単なる装飾品としてだけでなく、文化遺産、伝統工芸品としての価値も高く、オマーンの国旗にデザインされていることからも、その文化的意義の大きさが伺えます。その精巧な作りや希少な素材、そして伝統的な装飾は、所有する者のステータスを示すものとして、人々に愛され続けています。

もう一度検索