ハンス・エッピンガー

ハンス・エッピンガー・ジュニア：医学者とナチス犯罪者の二面性

ハンス・エッピンガー・ジュニア（1879年 - 1946年）は、オーストリア出身の医師であり、内科学、特に肝臓病の分野で知られた人物でした。ウィーン大学などで教鞭をとり、国際的な名声も得ていました。しかし、その輝かしい経歴とは裏腹に、彼はナチス政権下でダッハウ強制収容所において、非道な人体実験に関与したという暗い歴史も持ち合わせています。

エリート医師としての経歴

エッピンガーは、プラハのユダヤ人家庭に生まれ、グラーツとストラスブールで医学教育を受けました。1903年にグラーツ大学で医学博士号を取得後、ウィーンに移り、内科医として成功を収めました。特に肝臓病の専門家として高い評価を得て、1918年には教授の地位に就き、フライブルク、ケルンといったドイツの大学で教鞭をとりました。彼の医学的貢献は高く評価され、いくつかの医学用語や賞にも彼の名前が残されています。国際的にも活躍し、ヨシフ・スターリンやルーマニア王妃マリアの治療にあたったという記録も残っています。

ナチスへの加担と人体実験

しかし、エッピンガーは1938年、オーストリア併合（アンシュルス）直前にナチス党に入党しました。彼の所属するウィーン大学はすでにナチスの影響下におかれており、エッピンガー自身もナチスのイデオロギーに同調していったと考えられています。

彼の暗い側面が顕著になったのは、第二次世界大戦中のダッハウ強制収容所での人体実験への関与です。エッピンガーは、ヴィルヘルム・バイグルベックらと共に、収容者、特にロマの人々を対象に、非人道的な人体実験を行いました。その一つが、海水のみを摂取させた実験です。これは、遭難したパイロットの生存可能性を調べるという名目で、90名以上のロマの人々が被験者とされました。被験者たちは、脱水症状、腎臓、腸、肝臓の機能不全、極度の苦痛に見舞われ、多くの犠牲者を出しました。この実験は、ナチスの人体実験の中でも特に残虐なものとして知られています。

死とその後

戦争終結後、エッピンガーは大学から追放され、ニュルンベルク裁判で裁かれることになりました。しかし、裁判が始まる前に1946年9月25日、服毒自殺によって命を絶ちました。

彼の死後も、エッピンガーの名前は、医学史における彼の貢献と、ダッハウにおける残虐な人体実験という相反する側面の両方から、議論の的となっています。彼の名を冠した医学用語や賞は、その行為を問題視した世論を受けて撤廃されるケースも見られます。エッピンガーの生涯は、個人の才能と業績が、イデオロギーと政治的状況によってどのように歪められ、非道な行為に転じる可能性を示す、痛烈な教訓となっています。彼の物語は、医学倫理、人権、歴史の闇の部分を理解するために、後世に語り継がれていくべきでしょう。

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