ハンス・シュミット (建築家)

ハンス・シュミット

ハンス・シュミット（Hans Schmidt、1893年 - 1972年）は、スイスを代表する近代建築家の一人であり、都市理論家、建築評論家、そして都市計画家としても多岐にわたる活動を展開しました。彼のキャリアは、当時の国際的な建築運動や社会情勢と深く結びついています。

初期活動と国際的な交流

シュミットは1920年頃からオランダのロッテルダムを拠点に活動を開始しました。この地で彼は建築家マイケル・ブリンクマンの助手として経験を積む一方、当時のオランダにおける先鋭的な芸術・建築活動、いわゆるアヴァンギャルド運動の担い手たちと積極的に交流を持ちました。この時期の経験は、後の彼の理論的、実践的な活動の基盤を形成したと言えるでしょう。

1922年、シュミットは母国スイスに帰国し、そこで新たな建築運動の開始を宣言します。これは、当時の保守的な建築界に対する挑戦であり、ヨーロッパ各地で興隆しつつあった新しい建築思想をスイスに根付かせようとする試みでした。

『ABC』誌とABCグループ

彼の活動の中でも特筆すべきは、1924年から1928年にかけて、建築家マルト・スタム、エミル・ローらと共に建築雑誌『ABC』を出版したことです。この雑誌は「ABC：国際構成主義の建築」という副題を持ち、当時の国際的な近代建築運動、特に構成主義的な思想を強く打ち出していました。同年には、この雑誌を中心に、エル・リシツキー、ハンネス・マイヤー、そしてスタムやローといった有力な建築家たちが集結し、ABCグループが設立されました。シュミットはこのグループの中心メンバーとして、理論的な提唱や議論をリードしました。

建築評論とソ連への渡航

1930年代に入ると、シュミットは建築評論家としての活動も本格化させます。彼は特にソビエト連邦における近代建築の動向に強い関心を持ち、その成果として『ソビエト連邦と近代建築』と題する著作を発表しました。これは、社会主義体制下での建築や都市計画のあり方について、彼の深い洞察を示すものでした。

彼のソ連に対する関心は、やがて実践的な活動へとつながります。彼はマルト・スタムと共にソ連に渡り、大規模な都市計画プロジェクトに関わることになります。具体的には、ウラル地方のオルスクやウクライナのマケーフカといった計画都市の建設に参画し、近代的な都市のあり方を社会主義建設の文脈で実現しようと試みました。

スタムが後にソ連を離れた後も、シュミットは長くソ連に滞在し続けました。特にオルスクの建設においては、現地の状況に合わせた現実的な提案を行いました。例えば、建設作業員の多くが専門家ではない素人労働者であることを考慮し、彼らでも容易に扱える単純な工法を用いた住宅の設計や建設システムを提案するなど、計画の実現性を高めるための改善に尽力しました。彼のソ連での長期滞在は、単なる計画の立案に留まらず、社会主義社会における建築・都市計画の実践と課題に深く向き合った証と言えるでしょう。

ハンス・シュミットの生涯は、建築設計、理論研究、評論、そして国際的な実践を結びつけたものであり、20世紀前半のヨーロッパにおける近代建築運動と、当時の複雑な社会・政治状況との関わりを示す貴重な事例を提供しています。

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