ハートブレイク・ホテル

ハートブレイク・ホテル：ロックンロールの原点

エルヴィス・プレスリーの「ハートブレイク・ホテル」は、1956年にRCAレコードからリリースされたシングルで、彼のキャリアを決定づける重要な一曲となりました。RCA移籍後初のシングルであり、初のビルボードチャート1位を獲得したこの曲は、単なるヒット曲としてだけでなく、ロックンロールという新しい音楽ジャンルの誕生を象徴する存在として、音楽史にその名を刻んでいます。

制作の背景

この曲の歌詞は、新聞記事に掲載された自殺者の遺書の一文「I walk a lonely street」に着想を得て作られました。作曲者のメイ・アクストンは、孤独な魂のための場所として「ハートブレイク・ホテル」を建てようと提案し、トミー・ダーデンとともに曲を書き上げました。しかし、レコーディングでエルヴィスが加えたアレンジによって、楽曲は全く新しいものへと生まれ変わりました。エルヴィスは、当時の流行歌とは一線を画す、暗く、楽器も必要最低限に絞ったこの曲を、自身のデビューシングルとして選んだのです。

1956年1月10日、RCAでの最初のレコーディングセッションで、エルヴィスは「ハートブレイク・ホテル」に加え、「アイ・ガット・ア・ウーマン」「マネー・ハニー」も録音しました。スコティ・ムーア（ギター）とビル・ブラック（ベース）といった旧来のサポートメンバーに加え、ピアニストとドラマーも加わったバンド編成でレコーディングは行われました。カントリーギタリストのチェット・アトキンスもこの曲に参加しています。翌11日には、シングルB面曲の「アイ・ワズ・ザ・ワン」も録音されました。当時のRCAの音響スタッフは、サン・レコードのような残響を出す方法を知らなかったため、サン・レコード時代とは異なる、リバーブを効かせたサウンドになっています。

大ヒットと音楽史への影響

1956年1月27日にシングルA面として発表された「ハートブレイク・ホテル」は、当初RCA側からはヒットの可能性は低いと見られていました。しかし、プレスリーがテレビ番組『Stage Show』でこの曲を演奏すると、その反響は大きく、ビルボードチャートで7週連続1位を記録、年間シングルチャートでも1位を獲得しました。この曲の大ヒットにより、エルヴィスは全米での人気を確立し、ゴールドディスクを獲得しました。この成功は、後の全米トップ10に36曲をランクインさせるという記録（2008年にマドンナに破られるまで歴代1位）につながっていきます。

「ハートブレイク・ホテル」は、その後の音楽シーンにも多大な影響を与え、ローリングストーン誌が選ぶ「オールタイム・グレイテスト・ソング500」では45位にランクイン、またイギリスの音楽雑誌「アンカット」では「世界を変えた」曲の2位に選出されました。

ロックンロールの誕生

「ハートブレイク・ホテル」以前にもロックンロールの要素を持つ楽曲は存在していましたが、この曲は世界的にロックというジャンルに興味を持たせるきっかけとなり、若者文化としてのロックンロールを確立しました。U2のボノもこの曲が持つ革新性を語っています。

ビートルズへの影響

ローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンなど、多くのミュージシャンが「ハートブレイク・ホテル」の影響を受けていますが、中でもビートルズへの影響は特に大きいと言えるでしょう。当時15歳だったジョン・レノンは、ラジオでこの曲を聴き衝撃を受け、翌日レコード店に駆けつけ購入したと言われています。ジョンはこの曲が世界を変えたと語り、エルヴィスがいなければビートルズは生まれなかっただろうとまで言及しています。

その他

ジャクソンズが1980年に同名のシングルを発表しましたが、楽曲としては全くの無関係でした。マイケル・ジャクソンは、タイトルは自分で考えたものであり、エルヴィスの影響を受けたわけではないと述べています。この曲は後に「This Place Hotel」と改名されました。

「ハートブレイク・ホテル」は多くのアーティストによってカバーされており、日本語詞でのカバーも存在します。アルバート・キング、レッド・ツェッペリン、ジョン・ケイル、スージー・クアトロ、ウィリー・ネルソンとレオン・ラッセル、ガンズ・アンド・ローゼズ、ビリー・ジョエルなど、ジャンルを超えた様々なアーティストがこの曲をカバーしています。

B面の「アイ・ワズ・ザ・ワン」の邦題は、かつて「ただひとりの男」とされていましたが、歌詞の文脈からすれば誤訳です。

「ハートブレイク・ホテル」は、エルヴィス・プレスリーの代表作であると同時に、ロックンロールの歴史においても重要な一曲として、今もなお多くの人々に愛され続けています。

もう一度検索