ハーバード大学本源氏物語

ハーバード大学本源氏物語：貴重な鎌倉時代の源氏物語写本

ハーバード大学本源氏物語は、アメリカ合衆国ハーバード大学のアーサー・M・サックラー美術館に所蔵されている、源氏物語の写本です。明治以降、多くの日本の古文書が海外に流出しましたが、その実態は未解明な部分が多い中、本写本は詳細な研究がなされている数少ない貴重な資料の一つと言えるでしょう。特に、海外にある源氏物語写本として、主要な校本に採録されている唯一の写本である点は特筆に値します。

写本の概要と特徴

本写本は、須磨と蜻蛉の2帖のみが現存する零本です。書写年代は鎌倉時代の初期と推定されており、伝承では天台宗の僧侶、慈円による書写とされています。

その特徴は、何よりもその豪華な装丁にあります。墨流しによる下絵装飾や、吹き絵による料紙装飾が施されており、鎌倉時代の高い芸術性を示す優れた作品です。本文の内容は、陽明文庫本や保坂本に近い系統に属する別本であるとされています。これらの特徴から、本写本は単なる写本としてだけでなく、鎌倉時代の美術工芸、そして源氏物語の研究においても極めて重要な資料と言えます。

関係する写本と研究

ハーバード大学本源氏物語の研究は、単独で行われているわけではありません。いくつかの関連する写本や断簡の存在が確認されており、それらとの比較研究を通じて、本写本の位置づけや本文の成立過程などが明らかになりつつあります。例えば、国立歴史民俗博物館所蔵の中山本源氏物語の一部や、相愛大学付属図書館所蔵の断簡などが、その関連資料として挙げられます。

本写本の研究は、学術論文や刊行物を通して行われています。上野英二氏による須磨巻と蜻蛉巻の翻刻や、伊藤鉃也氏による影印本の刊行は、研究者のみならず、一般の愛好家にとっても貴重な資料となっています。また、『源氏物語別本集成続』にも、本写本の本文が収録されており、学術的な検証に役立てられています。これら研究成果により、本写本が持つ学術的価値がさらに高まっていると言えるでしょう。

本写本の学術的意義

海外に流出した日本の古文書の多くは、その所在や内容が不明なままになっています。その中で、ハーバード大学本源氏物語は、正規の研究機関に所蔵され、学術的な調査が綿密に行われている数少ない例です。本写本に関する研究は、源氏物語の本文研究、鎌倉時代の文学・文化史研究、さらには日本古文書の海外流出問題を考える上でも、重要な役割を果たしています。今後も、本写本に関する研究が継続され、さらに多くの知見が得られることが期待されます。

まとめ

ハーバード大学本源氏物語は、その豪華な装飾と学術的な価値から、源氏物語研究において重要な位置を占める写本です。鎌倉時代の初期に書写されたと推定され、その本文や装丁は、当時の文化水準の高さを物語る貴重な資料となっています。今後も、本写本に関する研究が発展し、源氏物語や鎌倉時代の文化を理解する上で、更なる貢献をすることが期待されます。

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