バイソン移動トーチカ

バイソン：移動可能なコンクリート要塞

1940年、ドイツ軍の侵攻が迫る中、イギリスは独自の防御手段として「バイソン」と呼ばれる移動式トーチカを開発しました。バイソンとは、コンクリート装甲を施した輸送車を改造した車両で、複数のメーカーが生産に関わったことから、一般的な名称として定着しました。

移動式トーチカの必要性

イギリスは、侵攻に備える時間と資源が不足していました。急造された多くの固定式トーチカは、レンガやコンクリートなどを用いて建設されましたが、これは飛行場の運用に支障をきたす可能性がありました。ドイツ軍の空挺部隊が飛行場を侵攻拠点として利用する懸念から、飛行場周辺に固定式トーチカを建設することは避けられました。

そこで、トラックにトーチカを設置し、必要に応じて移動させるというアイデアが考案されました。これは、防御態勢の迅速な構築や、グライダーの着陸妨害など、柔軟な運用を可能にする画期的な方法でした。鉄材の不足から、装甲材にはコンクリートが主に使用されました。コンクリート社は、このアイデアを具体化し、飛行場防衛のためのコンクリート装甲輸送車の開発に貢献しました。バイソンという名称は、この車両の一般的な呼称となり、後にコンクリート社の商標名にもなりました。

ボービントン戦車博物館のバイソン

ボービントン戦車博物館には、ソーニクロフト社製のバイソンが展示されています。これは1931年後半に製造された6輪3トン貨物車「ターター」をベースに改造された車両です。軍用ターターは後輪が1本であるのに対し、民間仕様は2本である点が特徴です。ダンケルクの戦い後、近代的な軍用トラックの不足から、比較的新しいトラックがバイソンのベース車両として使われることはなくなりました。博物館に展示されているバイソンは、ベヴァリーの陸軍輸送博物館で、オリジナルのトーチカと車体を組み合わせることで復元されました。

構造と移動式トーチカの限界

バイソンのトーチカは、木型にコンクリートを流し込んで製造されたため、木型の隙間が原因で特徴的な筋が入っています。コンクリートは重火器に対しては脆弱でしたが、軽装備のドイツ軍降下猟兵に対する防御としては十分でした。乗員は、輸送車のデッキにあるハッチからトーチカに出入りします。運転席はオープントップで、側壁から乗り込む構造でした。初期の車両には、トーチカの上部に連絡用の箱が設置されているものもありました。分割トーチカ型は傾斜装甲を採用し、重量軽減を図っています。一部の車両では、運転席を非装甲として機動性を向上させている例も見られます。エンジンやラジエーターの防御を試みた車両もありましたが、ラジエーターの大部分を鋼板で覆った程度で、ステアリングボックスは露出していました。

バイソンは、あくまでも移動可能なトーチカであり、装甲車ではありませんでした。重量過多、視界不良、冷却能力不足など、移動に多くの困難を抱えていました。多くの車両は故障し、牽引されたり、放棄されたりしました。蒸気機関車を撤去した蒸気機関車台の車体を流用した例では、重量過多にも対応できたようです。

まとめ

バイソンは、第二次世界大戦前夜のイギリスが、限られた資源と時間の中で、ドイツ軍侵攻に備えて開発した、創意工夫に富んだ兵器でした。その簡素ながらも実用的な構造と、歴史的背景を理解することで、当時のイギリスの状況を垣間見ることができます。また、その設計上の限界も、戦争における技術的な課題を示唆しています。

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