バキュロウイルス科

バキュロウイルス科（Baculoviridae）とは

バキュロウイルス科は、昆虫などの節足動物に感染するDNAウイルスの一種です。一般的にはバキュロウイルスと呼ばれ、主にヌクレオポリヘドロウイルス（NPV）とグラヌロウイルス（GV）の2つの属に分類されます。

特徴

宿主特異性: バキュロウイルスの大きな特徴は、感染する宿主の範囲が非常に狭いことです。ほとんどの種類は特定のチョウ目の幼虫にのみ感染します。ただし、ハチ、カ、エビなどに感染するバキュロウイルスも存在します。
安全性: 脊椎動物には感染・増殖しないため、人体や環境への影響が少ないと考えられています。この特性から、特定の害虫駆除を目的とした生物農薬としての利用が進められています。
形態: バキュロウイルスのビリオン（ウイルス粒子）は、大型の棒状で、エンベロープと呼ばれる膜に覆われています。GVではエンベロープ1個につきヌクレオカプシド（核酸とタンパク質の複合体）が1個含まれますが、NPVでは複数のヌクレオカプシドが含まれる場合があります。さらに、ビリオンはタンパク質の結晶である包埋体（GVではグラニュリン、NPVではポリヘドリン）に包まれています。
ゲノム: ゲノムは環状の二本鎖DNAで、80～180kbp（キロ塩基対）と比較的大きく、100以上の遺伝子を持っています。

感染のプロセス

1. 感染: 宿主となる昆虫が、バキュロウイルスの包埋体が付着した植物などを食べることによって感染が始まります。
2. 溶解: 昆虫の中腸内はアルカリ性であるため、包埋体が溶解し、ウイルスが放出されます。
3. 細胞への侵入と複製: 放出されたウイルスは中腸の細胞に感染し、細胞内で複製されます。
4. 全身感染: 複製されたウイルスは、細胞表面から出芽し、他の細胞へと感染を広げ、全身感染を引き起こします。
5. 包埋体の形成: 感染が広がった細胞内では、再び包埋体が形成されます。包埋体は、ウイルスを保護し、環境中での安定性を高める役割を果たします。
6. 宿主の死亡とウイルスの拡散: 感染した昆虫は最終的に死亡し、その体内で液状化します。その後、皮膚が破れると、内部に充満したウイルスが環境中に放出され、新たな宿主への感染源となります。

包埋体型のウイルスは、出芽型ウイルスよりも安定性と感染性が高いため、効率的な感染環を維持することができます。

生物農薬としての利用

バキュロウイルスの宿主特異性と安全性の高さから、特定の害虫を駆除するための生物農薬として利用されています。化学農薬に比べて環境負荷が低く、天敵への影響も少ないため、持続可能な農業に貢献することが期待されています。

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