バチルス・チューリンゲンシス

バチルス・チューリンゲンシス（Bacillus thuringiensis）

バチルス・チューリンゲンシス（以下、BT）は、バシラス属に分類される細菌の一種です。1901年に日本の石渡繁胤によってカイコの病原菌として発見されました。石渡は、カイコが卒倒して死ぬ症状を引き起こす細菌を分離し、「卒倒病菌」と名付けましたが、新種としての記載は行いませんでした。

その後、1911年にドイツのエルンスト・ベルリナーが、スジコナマダラメイガの死骸から同じ種類の細菌を分離し、発見地であるテューリンゲンにちなんで「Bacillus thuringiensis」と命名しました。石渡が発見した菌は、現在ではB. thuringiensis H血清型4abのserovar sottoとして知られています。

特徴と応用

BTは、土壌、植物の表面、水域、活性汚泥など、自然環境に広く分布しています。この細菌の大きな特徴は、特定の昆虫に対して選択的な毒性を示すことです。特に鱗翅目（チョウやガ）、双翅目（ハエや蚊）、鞘翅目（コウチュウ）の昆虫に効果がある菌株が見つかっています。

この性質を利用して、BTは生物農薬（BT剤）として世界中で広く利用されています。BT剤は、化学農薬に比べて人体や環境への影響が少ないとされており、有機農業などでも利用されています。

また、BTが生産する殺虫性タンパク質（Bt毒素）の遺伝子を植物に組み込むことで、特定の害虫に抵抗力を持つ遺伝子組み換え作物を作ることもできます。これらの作物は、農薬の使用量を減らすことができるため、環境負荷低減に貢献しています。

ただし、BTは昆虫だけでなく、線虫や土壌微生物にも影響を与える可能性があるとの報告もあります。

病原性と毒素

BTには、昆虫に対して毒性を示さない菌株も多く存在します。これらの菌株が産生する結晶性タンパク質の機能は長年不明でしたが、2000年に、ヒトのガン細胞に対して選択的な破壊活性を示す「パラスポリン」が発見されました。この発見は、BTの新たな可能性を示唆しています。

BTと近縁のセレウス菌は、食中毒の原因菌として知られています。両者の違いは、殺虫性結晶タンパク質の生産能力の有無によって区別されています。

食品への影響

BTは自然界に広く存在するため、多くの農産物に付着している可能性があります。特に生物農薬として利用されていることから、農産加工品、特に豆腐などへの影響が懸念されています。実際に、外国産大豆、国産大豆、市販の豆腐を調査した結果、大豆の汚染が確認され、豆腐からも下痢を引き起こす毒素が検出されています。ただし、検出された毒素は食品衛生上問題となるレベルではありません。

まとめ

バチルス・チューリンゲンシスは、生物農薬や遺伝子組み換え作物の開発に利用される有用な細菌です。一方で、食品への混入も確認されており、安全性への注意も必要です。

外部リンク

微生物殺虫剤(BT剤)の改良と作用メカニズム
Bacillus thuringiensisの殺虫性タンパク質関連研究

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