バッファロー'66

『バッファロー'66』は、1998年に公開されたヴィンセント・ギャロ監督・脚本・主演によるアメリカ映画です。出所したばかりの男ビリーと、彼が拉致した若い女性レイラの奇妙な旅を描いた作品で、独特の映像美と音楽、そして複雑な人間関係が絡み合う、カルト的な人気を誇る映画として知られています。

5年間の刑期を終え釈放されたビリー・ブラウンは、バッファローの実家に戻ることを決めます。しかし、彼は両親に服役していたことを隠しており、政府の仕事で遠くにいたと嘘をつき、さらに勢いで婚約者を連れて帰るとまで言いふらします。もちろん、婚約者などいません。そこで、彼はトイレを借りたダンス教室で出会ったレイラを拉致し、偽の婚約者として自分の両親に紹介しようとします。

ブラウン家には、ビリーの父ジミーと母ジャンがいます。彼らは息子をあまり気にかけておらず、ビリーは長年、両親からの愛情に飢えていたことがわかります。特に母親のジャンは、アメフトチームのことにばかり気を取られており、ビリーの出産のために1966年の優勝試合を観戦できなかったことを未だに悔やんでいます。この1966年という数字は、後に重要な意味を持つことになります。4人はぎくしゃくした時間を過ごしますが、レイラの気遣いによって、多少は雰囲気が和らぎます。

当初はビリーに反発していたレイラですが、一緒に過ごすうちに、彼の純粋さや繊細さ、優しさに気づき始め、次第に愛情を抱くようになります。二人はボウリング場を訪れたり、モーテルで過ごしたりするうちに、互いに心を通わせていきます。しかし、ビリーは過去の出来事から逃れることができずにいました。彼はかつて、ノミ屋との賭けに負けた罪を被り、刑務所に入っていたのです。彼はその恨みを、賭けに絡んでいた元キッカーのスコットに晴らそうとしていました。

ビリーはスコットが経営するストリップ劇場に銃を持って乗り込み、彼を殺して自分も自殺しようと考えます。しかし、死んだ後も何も変わらない、墓前に座って両親と話している自分を想像し、馬鹿馬鹿しくなって銃口を下ろします。そして、レイラの元に戻り、二人は抱き合って眠りにつきます。

この映画は、ミニシアターで公開され、カルト的な人気を博しました。プログレッシブ・ロックを中心とした選曲、個性的な俳優陣、グレーを基調とした色彩感覚、そして小津安二郎の影響を受けたと言われる固定カメラワークなど、低予算ながら独特の映像表現で多くの映画ファンを魅了しました。ストーリーの背景には、バッファロー・ビルズとニューヨーク・ジャイアンツが対戦した1991年のスーパーボウルが関わっています。ビルズのキッカー、スコット・ノーウッドの決勝FG失敗（Wide Right）は、ビリーの復讐劇の重要な伏線となっています。

『バッファロー'66』は、一見奇妙な物語ですが、家族の愛、過去のトラウマ、そして救済といった普遍的なテーマを扱っています。ヴィンセント・ギャロの独特の世界観と、クリスティーナ・リッチら個性的な俳優たちの演技が見事に融合した、忘れがたい作品と言えるでしょう。

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