バフムートの戦い

バフムートの戦い：泥沼の消耗戦

2022年、ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、ドネツク州の要衝バフムートを巡り、ロシア軍とウクライナ軍の間で激しい攻防戦が繰り広げられました。この戦いは、双方に多大な人的・物的損害をもたらし、泥沼の消耗戦となりました。

戦いの背景

2014年以来、ウクライナ東部ドンバス地方では、ウクライナ政府とロシアおよび親ロシア派勢力との間で紛争が続いていました。バフムートは、かつて7万人の人口を擁し、ドンバス地方の交通の要衝でした。2014年のマイダン革命以降、バフムートはNATOの支援を受けながら要塞化が進められました。

市内にはコンクリート製の堅固な防御陣地が築かれ、大量の武器弾薬が備蓄されました。要所には戦車や対戦車・対空ミサイルが配備され、周囲には地雷原や対戦車障害が設置されました。2022年2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、バフムートは戦場と化しました。ロシア軍はセベロドネツクとリシチャンシクを制圧した後、戦場はバフムートへと移りました。

戦闘の経過

ロシア軍は2022年5月からバフムートへの攻撃を開始し、砲撃により民間人にも多数の犠牲者が出ました。5月22日にはポパスナが陥落し、ウクライナ軍はバフムートの防衛体制を強化するために撤退しました。その後も、ロシア軍はバフムートへの攻撃を続け、7月には火力発電所周辺で激しい戦闘が起こり、ウクライナ軍は撤退を余儀なくされました。

8月に入ると、ロシア軍は地上攻撃を本格化させ、バフムート市内への侵攻を試みました。激しい戦闘が繰り広げられ、市街地は破壊され、民間人にも多くの犠牲者が出ました。10月には、ロシア軍の主力は民間軍事会社ワグネル・グループに置き換わり、バフムートを巡る攻防はさらに激化しました。

11月になると、バフムート周辺の戦闘は塹壕戦へと移行し、泥沼の膠着状態に陥りました。毎日数百人もの死傷者を出すこの地域は、「ウクライナ戦争で最も血なまぐさい戦い」とも呼ばれるようになりました。ワグネルの創設者は、この戦いを「バフムートの肉ひき機」と表現し、ウクライナ軍の戦闘力低下を目的とした作戦であることを示唆しました。

12月以降も激戦は続き、ロシア軍は郊外の村を制圧し、一部部隊は市街地南部に到達しました。しかし、ウクライナ軍も反撃を繰り返し、激しい攻防が繰り広げられました。2023年に入ると、ロシア軍は正規の空挺部隊を投入し、さらに攻勢を強めました。

米国や欧州諸国は、ウクライナに対してバフムートからの撤退を勧告しましたが、ゼレンスキー大統領はバフムートを「要塞」と位置づけ、徹底抗戦を宣言しました。2月には、今後の反攻に備えて、バフムートを死守し、ロシア軍を消耗させる方針を明らかにしました。3月にはワグネルがバフムート東側を制圧し、陥落の危機が迫りましたが、ウクライナ軍も粘り強く抵抗しました。

5月にはロシアが戦勝記念日を意識して攻勢を強め、ワグネルは市街地の95%を制圧したと宣言しましたが、物資の不足により混乱が生じました。ウクライナ軍も反撃に転じ、一部地域を奪還しましたが、5月20日、プリゴジンはバフムートを完全制圧したと主張しました。しかし、ウクライナ側はこれを否定し、その後も戦闘は続きました。

6月、ワグネル・グループが撤退を開始し、ロシア空挺軍が交代しました。その後、ウクライナ軍は反転攻勢を開始しましたが、バフムート周辺では小規模な奪還にとどまりました。

戦いの評価

バフムートの戦いは、両軍にとって大規模な消耗戦となりました。軍事アナリストは、この戦いを「双方とも消耗戦が有利だと考えた」と分析しています。バフムートでの戦闘は、ロシア軍の他の戦線での戦力展開やウクライナ軍の反攻作戦に影響を与えたとされています。

一部のアナリストは、この消耗戦をロシアの勝利、戦略的なウクライナの敗北とみなしています。米政府関係者は、ウクライナがバフムートの維持に固執したことを懸念し、この戦いによってウクライナ軍が大きな損害を被ったことが、反攻作戦の失敗につながったと考える者もいます。

バフムートの戦いは、第二次世界大戦中のインパール作戦に例えられることもあります。軍の上層部が戦況全体を見通せず、現場の声に耳を傾けなかった結果、数万人規模の死者が出たという点で共通しています。

バフムートの戦いは、ウクライナ戦争における最も激しく、血なまぐさい戦いの1つとして、歴史に刻まれることでしょう。

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