バリー・シーン

バリー・シーン：伝説のライダー、その栄光と波瀾万丈な人生

バリー・シーン（Barry Sheene MBE, 1950年9月11日 - 2003年3月10日）は、20世紀を代表するモーターサイクルロードレーサーの一人として、その名を歴史に刻んだイギリス人ライダーです。ゼッケン7と、ドナルドダックが描かれた特徴的なヘルメットは、世界中のモータースポーツファンに知られています。

ロードレース世界選手権（世界GP）において、彼は計23勝（GP500:19勝、GP125:3勝、GP50:1勝）を挙げ、そのうちGP500クラスでは2度のワールドチャンピオンに輝きました。2023年現在、世界GP最高峰クラスでチャンピオンに上り詰めた最後のイギリス人ライダーとして、その偉業は今もなお称賛されています。MotoGP殿堂入りを果たしており、その功績は後世に語り継がれるでしょう。

スズキ時代と華麗なるチャンピオンシップ

1974年、シーンはスズキと契約。1975年にはアメリカ・デイトナスピードウェイで250km/hを超える速度での転倒事故に遭い、瀕死の重傷を負います。しかし、その危機を乗り越え、同年中には世界GPレースに復帰。見事500ccクラスで初優勝を飾るという驚異的な復活劇を演じました。

1976年と1977年、スズキが初めて500ccクラスに投入した、革新的なスクエア型4気筒ワークスマシンRG500を駆り、2年連続で世界GP500ccクラスチャンピオンに輝きました。この輝かしい成功は、シーンの類まれな才能と、スズキの技術革新が融合した結果と言えるでしょう。

ヤマハ時代：ライバルとの激闘と悲劇

1980年にはスズキからヤマハに移籍。当時のヤマハのエース、ケニー・ロバーツとの激しいライバル争いを繰り広げました。しかし、プライベーターとしての参戦というハンデを負い、当初は市販車TZ500で戦いを強いられることになります。後にファクトリーマシンYZRが提供されたものの、最新型マシンが与えられるタイミングが遅れたことには様々な憶測が飛び交いました。

1982年にはJPSタバコをスポンサーに迎え、準ファクトリーチームとして参戦。新型マシンOW60を与えられ、開幕戦アルゼンチンGPではロバーツと1-2フィニッシュを達成。しかし、イギリスGPの練習走行中に転倒事故に遭い、再び瀕死の重傷を負ってしまいます。この事故により、世界チャンピオン返り咲きの夢は断たれてしまいました。

引退後と晩年

ヤマハから再びスズキへ移籍したシーンは、1984年に世界GPから引退。その後、イギリスからオーストラリアへ移住し、4輪レースに参加したり、レース解説者として活躍したりするなど、モータースポーツ界との関わりを続けました。彼の知名度の高さは、オーストラリアの自宅に「オーストラリア、海の近く、バリー・シーン様」という宛名だけでファンレターが届いたという逸話からも伺えます。

2003年、食道癌のためオーストラリアの病院で死去。52歳でした。長年の愛煙が、癌の原因と推測されています。

稀代のスター性と数々のエピソード

シーンは、世界GPチャンピオンが慣例として付けるゼッケン1を拒否し、自身のトレードマークであるゼッケン7を生涯貫き通しました。このゼッケン7は、ブリティッシュスーパーバイク選手権において永久欠番となっています。

レースでの活躍だけでなく、ファンやメディアへの積極的なPR活動も彼の大きな特徴でした。映画や音楽スター並みの高い人気と知名度を誇り、「英国で最も有名なライダー」と称されるほどでした。

度重なる大怪我からの復活劇は、彼の並外れた勇気と精神力の証です。全身に埋め込まれた金属プレートは、空港の金属探知機に反応するという逸話も残っています。

一方で、ライバルや所属メーカーを痛烈に批判するなど、型破りな言動で物議を醸すことも少なくありませんでした。奔放なキャラクターは人気と知名度を高めた一方で、多くの敵を作ったとも言われています。引退後には自伝映画『ザ・ライダー』も制作され、日本でも公開されました。

バリー・シーンは、類まれな才能と、スター性、そして波乱に満ちた人生を送った、真のモーターサイクルレジェンドでした。彼の功績と生き様は、永遠にモータースポーツの歴史に刻まれることでしょう。

もう一度検索