バンコク空襲

第二次世界大戦中、タイ王国の首都バンコクは連合国軍による度重なる空襲に見舞われました。この空襲は、1941年の日泰攻守同盟条約締結から1945年の太平洋戦争終結まで継続し、バンコクの都市機能や市民生活に大きな影響を与えました。

空襲の開始と激化

1941年12月8日の太平洋戦争開戦に伴い、日本軍がタイに進駐。その後、日泰攻守同盟条約が締結され、タイは日本側につきました。しかし、1942年1月8日にはイギリス軍によるバンコクへの爆撃が行われ、タイは連合国に対して宣戦布告することになります。この宣戦布告を機に、バンコクをはじめとするタイ各地への空襲が本格的に開始されました。

初期の空襲は夜間に行われることが多かったものの、1944年6月頃からは昼間の爆撃も頻繁に行われるようになりました。空襲の目標は、バンコクの交通要所である鉄道駅や鉄橋、軍事施設でしたが、しばしば目標が外れ、寺院や学校、一般の住宅地も被害を受けました。1942年11月には、B-24爆撃機がカルカッタから長距離を飛行して製油所を爆撃するなど、連合国軍による攻撃は激化の一途を辿りました。

1944年以降、日本軍の敗戦色が濃くなるにつれて、バンコクへの空襲はさらに苛烈さを増しました。日本軍関連施設、日本大使館、鉄道駅、工場、港湾施設など、バンコクの主要なインフラが次々と攻撃目標となり、甚大な被害を受けました。タイ空軍と日本軍も一式戦闘機などで応戦を試みましたが、高高度を飛行する爆撃機にはほとんど対抗できず、戦果は芳しくありませんでした。

空襲の具体的な被害

1944年1月から1945年1月までの間、タイ全土で約250回の空襲があり、約2,950機の航空機が来襲、約18,600発の爆弾と6,100発の焼夷弾が投下されました。その結果、死者1,900人、負傷者3,000人、建物損壊9,600棟、建物全壊1,200棟という甚大な被害が発生しました。特に、B-24爆撃機による空襲が多かったものの、バンコクはB-29爆撃機の初の実戦投入地でもありました。1944年6月には98機のB-29爆撃機がバンコクを空襲し、マッカサン鉄道駅貨物集積場を破壊。同年11月には、55機のB-29爆撃機がバーンスー駅鉄道操車場を攻撃しました。

ラーマ6世橋のような長大橋も攻撃目標となり、1945年1月には44機のB-24爆撃機によって爆撃されました。さらに、ドンムアン空港もP-51マスタング戦闘機によって襲撃を受けました。1945年4月には、連合軍の爆撃機が発電所や水道施設を破壊し、市民生活に大きな影響を与えました。

終戦間際の状況

1945年4月以降、終戦間際のバンコクは、連合国軍による昼間の空襲に晒され、防空能力はほぼ失われていました。当時の南方軍第39軍司令官であった中村明人中将は、「敵空軍は白昼堂々バンコク上空に飛来し、傍若無人の猛威を振るった」と回想しています。また、連合国軍は慰問品や薬を投下し、宣伝ビラを撒く余裕すらありました。これは、当時のバンコクの防空体制が完全に崩壊していたことを示しています。

関連史跡と作品

バンコク空襲の記憶を今に伝える史跡として、ドゥシット動物園内にあるカオディン防空壕が挙げられます。また、タイの作家トムヤンティの小説『メナムの残照』は、バンコク空襲を背景にした作品として知られています。

バンコク空襲は、第二次世界大戦におけるタイの歴史において、非常に重要な出来事です。この空襲によって、多くの犠牲者が出ただけでなく、都市のインフラや市民生活にも甚大な被害がもたらされました。この出来事は、戦争の悲惨さを今に伝えるだけでなく、平和の尊さを再認識するきっかけとなります。

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