バーナード・デ・マンデヴィル

バーナード・マンデヴィル：私悪と公益の逆説

17世紀から18世紀にかけて活躍したバーナード・デ・マンデヴィル (1670-1733) は、オランダ生まれのイギリスの思想家であり、医師でした。彼の名は、経済思想史に燦然と輝く『蜂の寓話――私悪すなわち公益』(The Fables of the Bees: or, Private Vices, Public Benefits) を著した人物として知られています。この著作は、一見矛盾するような「私悪が公益をもたらす」という逆説的な主張で、現代経済学にまで影響を与える重要な概念を提起しました。

名門の出自と多才な経歴

マンデヴィルは、当時重商主義経済で繁栄していたオランダのロッテルダムの名家出身です。父方の家系には政治家、学者、医師が、母方ヴェルハール家には海軍士官が輩出するなど、由緒ある家系に育ちました。ライデン大学で医学を修め、1691年には医学博士号を取得。その後、神経系統の専門医として開業しました。オランダの自由な思想環境のもと、大学時代には哲学も研究しており、エラスムス、ベール、ラ・ロシュフコー、ガッサンディ、ホッブズ、ロック、スピノザ、モンテーニュなど、多くの思想家に影響を受けました。

より広い世界を求め、マンデヴィルはロンドンへ渡り、そこで開業医として成功を収め、イギリス人女性と結婚して生涯をイギリスで過ごしました。

『蜂の寓話』と革新的な思想

マンデヴィルの思想的業績の頂点は、疑いなく『蜂の寓話』です。1705年に匿名で発表された風刺詩「ブンブンうなる蜂の巣」を拡張したこの著作は、人間の本性を理性よりも情念に求める、当時としては異端的な人間観に基づいています。彼は、人間の行動の根底にあるのは自愛心であり、伝統的な道徳観念は虚偽に満ちていると主張しました。

さらに、マンデヴィルは社会関係を、各個人の利己的な利益追求を動機とする相互的協力として捉えました。経済問題に関しても独自の考察を展開し、富の源泉を土地と労働に求め、分業による生産性の向上や、富裕層の贅沢な消費が雇用創出と経済発展に貢献すると論じました。

有名な副題「私悪すなわち公益」は、個人の利己的な欲望や利益追求が、結果として社会全体の利益につながるという逆説的な主張を象徴しています。これは、アダム・スミスの「見えざる手」の概念の先駆けとなる経済思想として、高く評価されています。

賛否両論と歴史的影響

マンデヴィルの思想は、当時の宗教家や知識人から激しい批判を受けました。『蜂の寓話』は、ミドルセックス州大陪審によって告発され、新聞で誹謗中傷されるなど、大きな社会的な波紋を呼びました。しかし、その革新的な思想は、ヒュームやスミスといった18世紀の著名な思想家、そしてケインズやハイエクといった20世紀の経済学者にも大きな影響を与え、現在まで研究され続けています。

多彩な著作

マンデヴィルは『蜂の寓話』以外にも多くの著作を残しました。寓話集、詩作、医学論文、政治論など、そのテーマは多岐に渡ります。彼の著作は、彼独自の鋭い観察力と、社会に対する深い洞察力を示すものです。

まとめ

バーナード・マンデヴィルは、その生涯を通じて、人間の行動と社会構造の本質を鋭く探求しました。『蜂の寓話』に代表される彼の思想は、一見矛盾するような主張を通して、現代経済学にまで影響を与え続ける、重要な知見を与えてくれています。彼の業績は、現代社会を考える上でも、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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