バーブリー・マスジド

バーブリ・マスジッド：インドにおける宗教対立の象徴

インドのアヨーディヤー市にあるバーブリ・マスジッド（バーブルのモスクを意味する）は、長年にわたるヒンドゥー教徒とイスラム教徒の深刻な対立の象徴となっています。このモスクは、多くのヒンドゥー教徒が神ラーマの生誕の地と信じる場所に位置しており、その場所をめぐる争いは18世紀から続いてきました。

モスクの建立は、1528年から29年頃にムガール帝国の将軍ミール・バキによって行われたと伝えられています。しかし、ヒンドゥー教徒の間では、このモスクがラーマ寺院の跡地に建てられたという主張が根強く、これが長年の対立の根源となっています。このラーマ寺院の存在そのものについては議論がありますが、ヒンドゥー教徒は、バキが既存の寺院を破壊してモスクを建設したと信じています。

インド考古学調査局による発掘調査が行われましたが、その結果については様々な解釈が存在します。裁判所は、バーブリ・マスジッドが空き地に建てられたものではなく、発掘された地下構造物はイスラム教のものではないと判断しました。しかし、この判断をもってしても、宗教間の対立は解消されることはありませんでした。

ヒンドゥー原理主義者たちは、バーブリ・マスジッドを「イスラム教徒による邪悪な侵略の象徴」と捉え、この地を本来のヒンドゥー教寺院に戻すべきだと主張しました。この主張は、1992年12月6日に大規模な暴動を引き起こし、バーブリ・マスジッドはヒンドゥー教徒の暴徒によって完全に破壊されました。この事件はインド全土に衝撃を与え、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間の暴力と緊張を激化させました。インド国内だけでなく、パキスタンやバングラデシュなど周辺国においても、宗教間の対立が深刻化しました。

その後、長年にわたる法廷闘争の末、2019年には最高裁判所が、係争地の土地をヒンドゥー教徒側に引き渡す判決を下しました。これを受けて、跡地にはラーマ寺院が建設され、2024年1月22日には盛大な落成式が執り行われ、モディ首相も出席しました。

バーブリ・マスジッドの破壊とラーマ寺院の建設は、インドにおける宗教対立の複雑さと、その政治的影響力の大きさを示す象徴的な出来事です。この事件は、宗教的アイデンティティとナショナリズムが絡み合い、社会に深い傷跡を残すことを改めて浮き彫りにしました。現在もなお、この出来事に対する様々な意見や解釈が存在し、インド社会における宗教間の緊張は完全には解消されていません。この問題は、インドの歴史と社会構造を理解する上で、非常に重要な要素となっています。今後、宗教間の調和と共存をどのように実現していくかが、インド社会にとって大きな課題となっています。

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